本研究は、長波長の光で駆動するケージド化合物を用いて、線虫の神経活動の観察と光操作を同時に行うことを目指している。最終年度は、初年度に明らかになった問題の解決に取り組んだ。具体的には、神経活動観察に用いるCa2+センサーGCaMPの光退色を防ぐため、カメラと同期して、カメラ露光時のみ点灯するLED光源を導入することで、GCaMPの退色を防ぎ、線虫への光毒性を低下させることができた。また、PDMS樹脂性の微小流路チップ内で自由に動き回る線虫において、動きが速くGCaMP発現細胞のトラッキングができなかった問題については、MATLABの画像解析機能を活用することで細胞トラッキングのカスタムスクリプトを作成することができた。この撮影システムを利用し、線虫の筋肉または運動神経細胞HSNに発現したGCaMPを観察しながら、ケージド化合物による細胞の活性化を試みたところ、それぞれの細胞においてGCaMPの蛍光上昇が観察された。同時に、筋収縮または産卵行動を観察することにも成功し、神経活動の観察と光操作を同時に行うという目標が達成された。また、介在神経RIM、AVA、PVQにもGCaMPおよびケージド化合物を適用することで、神経活動の観察と光操作を同時に行うことができた。これら一連の実験により、線虫の行動を観察するため4~5倍の低倍レンズを用いると、ケージド化合物の励起に用いる強い黄色光がGCaMPの観察チャネルに漏れ込み、GCaMPの蛍光変化を定量する妨げとなるという新たな課題も明らかになった。今後、ケージド化合物の励起光漏れ込みを抑制するため、光学フィルターの組み合わせを変えたり光路設計を見直す予定である。
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