研究課題
動物がある空間を探索するとき、空間上の重要な場所がどのように表現され、記憶として保持されるかはわかっていない。申請者は、報酬周辺には場所特異的な活動を示す場所細胞が集積すること(報酬場所細胞)を見出し、通常の場所細胞は数日単位で場所特異性が変化していくのに対し、報酬場所細胞は、毎日同じ場所で安定して発火し続け、新たな形質を持つ細胞群であることがわかった。そこで、本研究では、報酬場所細胞が既存の場所細胞からどのように形成されるか、報酬そのものを認識しているのか、あるいは場所との組み合わせが重要なのか、さらに記憶の痕跡に関連するのか、その形成に報酬系が如何に関係しているかを解明していく。本年度は、海馬に蛍光カルシウムセンサータンパク質を発現するトランスジェニックマウスの大脳皮質の一部を除去する事で海馬を露出し光学窓を設けた。マウスを発泡スチロール製の車輪型トレッドミルに乗せて頭位を固定し、マウスの目の前に置いたモニターに報酬や目印となる緑のゲートを設けた仮想現実直線路提示しマウスに探索させた。その行動中のマウスから二光子顕微鏡により海馬CA1の神経細胞の活動を観察した。仮想現実直線路内の報酬の位置が予測できる場合、報酬場所細胞がすぐに形成される一方、単調なパタンで長い壁が続く途中に毎回ランダムな位置に報酬を提示することで報酬場所を特定できなくした場合、報酬場所細胞は見られなかった。つまり、単に報酬場所細胞は報酬に反応するのではなく、報酬場所を特定することで形成されることが示唆された。そして、ランダムで提示される報酬前あるいは後に目印となるゲートを提示した場合は、報酬場所細胞は形成された。以上より、報酬場所細胞は報酬に反応するものではなく、報酬あるいは報酬のある場所の認識に関連する細胞である可能性が高いことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、イメージングデータを取得するとともに、来年度に行う予定であった光遺伝学を用いたデータも取得するため、従来の顕微鏡をアップデートした実験系の確立にも取り組んでいた。
引き続き、同様のデータを取得するとともに、報酬認識か報酬場所認識か特定するために、報酬場所細胞が音の提示後に与えられた報酬にも関連した発火を示すかも明らかにする。さらに、光遺伝学とイメージングの両立ができる実験系を確立し、記憶痕跡への報酬場所細胞の関与とその形成に対する報酬系セロトニン神経の関与を明らかにする。
二光子顕微鏡へ光遺伝子学を導入するための打ち合わせ準備に時間がかかった。そのため、翌年度その実験系を導入するために翌年度文として請求する。
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Biological Psychiatry
巻: 86 ページ: 167~168
10.1016/j.biopsych.2019.06.002
http://glutamate.med.kyoto-u.ac.jp/