本研究では、AMPA受容体に対して高選択非競合的に結合し、受容体の活性を減弱することによってその効果を誘発する抗てんかん薬であるペランパネルの抗掻痒効果に関する基礎的データを得ることにより、ペランパネルが抗掻痒薬として利用できるか否かについて検討することを目的とした。 本研究ではマウスを用いた行動実験を実施した。AMPA/kainate(AMPA/KA)受容体拮抗薬であるNBQXの抗掻痒効果を評価したところ、他のAMPA/KA受容体拮抗薬であ るCNQXがヒスタミン及びクロロキン(CQ)による引っ掻き行動を抑制したという過去の報告と一致した。一方、ペランパネルの髄腔内投与では、CQにより誘発される引っ掻き行動は有意に抑制されたが、ヒスタミンにより誘発される引っ掻き行動に有意な変化はみられなかった。AMPA受容体がCQによる急性の痒みの情報伝達に寄与する一方で、KA受容体は急性の痒みに対してAMPA受容体とは異なる役割を果たしている可能性を示唆するものと考えられた。接触皮膚炎モデルマウス及びアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた実験においては、ペランパネルが慢性的な痒みに対しても抑制効果を発揮する可能性が示唆された。特にアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた実験において、ペランパネルの髄腔内投与後比較的長い抗掻痒効果の持続を認め、ペランパネルのヒトでの体内消失半減期が約105時間という薬理学的特徴を反映していると考えられた。 本研究の結果から、AMPA受容体がマウスの急性および慢性の痒みの情報伝達において重要な役割を果たしており、抗てんかん薬であるペランパネルがヒトの痒みを軽減する候補薬となる可能性が示唆された。いわゆるドラッグ・リポジショニング(既存薬再開発)の可能性を強く示唆する結果であると考える。
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