研究課題/領域番号 |
19K16298
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
阿部 欣史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (80802826)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 薬物依存 / DBS / VBM / 背側線条体 / D1-MSN / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
薬物依存症において、脳深部刺激療法(DBS)が有効である。しかし、このDBSの治療効果の作用機序は未解明である。それはDBSによる電気刺激が、電極周辺の全ての脳回路に作用してしまう為、どの脳回路が治療効果へ結びつくのか分からなかった為である。そこで光遺伝学を用いて特異的な脳回路の活動を操作する事で、その回路特異的にDBSの作用を模倣する事が出来る。そして、この手法を用いてどの脳回路がDBS治療と結びつくのかを明らかにする。 全脳探索的に脳体積変化を解析できるvoxel-based morphometry (VBM)解析を用いて、薬物依存モデルマウスの脳体積変化を解析した。その結果、背側線条体、側坐核、眼窩前頭皮質、帯状皮質、前頭前野、腹側海馬で脳体積が増加している事が分かった。腹側線条体の一部である側坐核は薬物依存症に関係している事が知られているが、背側線条体についての報告が少ない。また、皮質領域や腹側海馬はどれも線条体へ入力を行う脳領域である。これらのことから、今後の研究は、背側線条体にターゲットを絞り、研究を進めていく。ドパミン受容体1型(D1)を持つ線条体神経細胞 (D1-MSN)にChR2を発現させたマウスを用いて、薬物依存症モデルマウスを作成し、D1-MSNが薬物依存に対してどのように寄与するのかを解析した。その結果、背側線条体のD1-MSNを長期的に刺激するする事で、薬物依存症で見られる薬物への探索行動が緩和される事が分かった。さらにこの時、脳体積変化を解析した結果、背側線条体、側坐核、眼窩前頭皮質、帯状皮質、前頭前野で見られた体積増加が正常状態まで戻っている事が分かった。これらの結果から、背側線条体におけるD1-MSNが作り出す神経回路は、DBS作用の一部を担っている事が分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造MRI解析から、薬物依存に関係する6つの脳領域を特定する事が出来た。そのうち背側線条体にターゲットを絞り研究を行った。背側線条体に関与している神経回路の内、D1-MSNが作る神経回路に着目した。光遺伝学を用いてその神経回路特異的にDBS作用を模倣して、薬物依存に対する影響を解析した結果、D1-MSNへの長期的な刺激が薬物依存の症状を改善する働きがある事が分かった。この事から、D1-MSNが作る神経回路がDBS効果の一部がある事が特定できた。
|
今後の研究の推進方策 |
DBS治療によって、D1-MSNのどのような変化が治療効果に結びついたのかを解明するため、長期的な光刺激によってD1-MSNの構造がどのような変化を示すのかを明らかにする。長期的な機能変化には構造変化が伴う事から、構造変化を見る事でその神経細胞の機能を知る事が出来る。また、D1-MSNだけではなく、背側線条体に関与している他の神経細胞にも薬物依存症改善の効果があるのかを調べ、どの神経回路が重要なのかを明らかにしていく。
|