薬物依存症において、脳深部刺激療法(DBS)が有効である。しかし、このDBSの治療効果の作用機序は未解明である。それはDBSによる電気刺激が、電極周辺の全ての脳回路に作用してしまうため、どの脳回路が治療効果へ結びつくのか分からなかった為である。そこで光遺伝学を用いて特異的な脳回路の活動を操作する事で、その回路特異的にDBSの作用を模倣する事が出来る。そして、この手法を用いてどの脳回路がDBS治療と結びつくのかを明らかにする。 全脳探索的に脳体積変化を解析できるvoxel-based morphometry (VBM)解析と拡散MRI技術を用いて、薬物依存モデルマウスの脳構造変化を解析した。その結果、背側線条体、側坐核、前頭葉 (眼窩前頭皮質、帯状皮質、前頭前野)で脳体積の増加と脳微小構造の変化を発見した。腹側線条体の一部である側坐核は薬物依存症に関係している事が知られているが、背側線条体、眼窩前頭皮質、帯状皮質、前頭前野は新規領域である。また、これらの脳領域ではシナプス密度が増加している事が分かった。次に、薬物依存マウスの線条体にDBSを行うと、線条体、側坐核、前頭葉で体積増加を抑える事が出来た。また、シナプス密度も減少していた。次に、DBSの作用がドパミン受容体1型(D1)を持つ線条体神経細胞 (D1-MSN)の活動に関係しているのかを調べた。その結果、D1-MSNを長期的に刺激する事でDBSと同じような構造変化を見出す事ができた。 これらのことから、DBSの作用の一つとして、D1-MSNの回路が関係している事、前頭葉の構造変化が関係している事、その構造変化はシナプスであることを発見した。
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