研究課題/領域番号 |
19K16308
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
勝山 彬 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (20824709)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 抗菌薬 / 薬剤耐性菌 / ペプチド / 有機合成化学 / 天然物 |
研究実績の概要 |
薬剤耐性菌に対して有効な新規抗菌薬の開発を指向し、リポデプシペプチド系天然物およびその誘導体の網羅的全合成に向けた検討を実施した。まず、合成標的として、これまでに全合成の報告がなく、化学構造の一部が未解明となっているエンペドペプチンを設定し、研究を行った。エンペドペプチンが有する3つの非天然アミノ酸を天然アミノ酸に変換したモデル化合物を設定し、合成経路の確立を行った。合成には誘導体合成が容易となるペプチド個装合成法を適用し、リポデプシペプチド類に特徴的な脂溶性側鎖は、固相合成法により合成した環状部に対して、薗頭カップリングにより導入することを計画した。脂溶性側鎖導入の足がかりとなるアルキンを有するフラグメントは、光学活性エピクロロヒドリンを出発物質として、TMSアセチレンによる求核置換反応を利用して合成した。このアルキンフラグメントを、L-アスパラギン酸保護体と縮合することでエステルユニットへと導き、これと市販の天然アミノ酸を用いて、固相合成を行った。天然アミノ酸の伸長工程では、一般的な縮合条件で問題なく反応が進行したが、エステルユニットの縮合ではβ脱離反応が副反応として進行した。この副反応は縮合剤をジフェニルホスホリルアジドへと変更することで、効果的に抑制可能であることを見出し、残りのアミノ酸の縮合と樹脂からの切り出しを経て、環前駆体を合成した。感化前駆体に対するマクロラクタム化は問題なく進行し、アルキンに対する薗頭カップリングにより、脂溶性側鎖の導入を完了した。このように、モデル化合物の合成研究により、各段階の最適化が終了した。引き続き、エンペドペプチンが有する非天然アミノ酸ユニットの合成を行った。ヒドロキシアスパラギン酸ユニットは、市販のアスパラギン酸より既知の方法で合成し、ヒドロキシプロリンユニットは申請者の開発したジュリエウギ反応を利用して合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エンペドペプチンの非天然アミノ酸を天然アミノ酸へと変換したモデル化合物の合成を通して、各ユニットの縮合条件を検討した結果、初期条件では導入が困難だったエステルユニットの導入条件を決定することができた。その後の合成においては、環化反応が問題なく進行することを明らかとした。さらに、リプデプシペプチド類に特徴的な、脂溶性側鎖部の導入を、エステルユニットが有するアルキンを足がかりとした薗頭カップリング反応により達成した。このように、天然物及びその誘導体を合成する上での合成経路の確立を本研究期間で達成することができた。また、天然物の合成に必要となる非天然アミノ酸の合成についても、反応条件の決定を含め迅速に達成することができた。以上の理由により、本研究は現在までに予定通り順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
確立した合成経路を利用して天然物エンペドペプチンの全合成をまず達成する。天然物の合成においては、これまでに合成した非天然アミノ酸ユニットが必要となるため、まず、これらユニットの大量合成を実施し、固相合成へと適用する。天然アミノ酸と非天然アミノ酸では反応性に差があることが予想されるため、モデル化合物の合成の際の反応条件で反応が思うように進行しない場合は、反応条件を再検討した上で最適化を行う。また、非天然アミノ酸ユニットの有する保護基によっても反応性の変化が予想されることから、保護基の変更についても柔軟に検討する。最適化した合成経路により、環状部の合成と脂溶性側鎖部の導入を行うことで、エンペドペプチンの全合成を達成する。この後、用いるアミノ酸を変更することで、他のリポデプシペプチド系天然物であるプラスバシンB3、トリプロペプチンCの全合成を達成する。次に、各天然物エンペドペプチン、プラスバシンB3、トリプロペプチンCの環状部に対して、脂溶性側鎖部に異なる置換基を導入した誘導体を合成する。嵩高い置換基を有するものは、立体障害による活性の向上を指向して合成する。また、他の作用機序を有する抗菌活性を有する天然物を当該部位に導入することで、それぞれの天然物の活性の相乗効果により高い活性を示す誘導体を獲得する。これら誘導体の獲得により、薬剤耐性菌に対して有効な新規抗菌薬のリード化合物を獲得する。
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