研究課題/領域番号 |
19K16310
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大澤 宏祐 東北大学, 薬学研究科, 助教 (20774417)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 全合成 / 天然物 / ペプチド抗生物質 / 枝分かれペプチド / N,O-アセタール |
研究実績の概要 |
枝分かれペプチド構造をもつ抗菌活性天然物スタロバシンIの世界初の全合成に向けて、はじめに第四級炭素に隣接するアミド窒素と第三級アルコールからなるN,O-アセタールの構築について、モデル基質を用いて条件最適化を行った。この際、第三級アルコールの低い求核性を補うため、高反応性のアシルイミニウムカチオンに対するO-アルキル化を検討した。すなわち、シクロプロパンアミノ酸のAlloc保護体に対して、N-クロロメチル化を経由してo-ヘキシニル安息香酸エステルユニットを導入した後、10 mol%の金触媒存在下3-ヒドロキシバリンを作用させることで、立体的に混み入った位置でのN,O-アセタール構築に成功した。アミノ酸同士の連結は単純な基質においても報告例がなく、今回が初めての例である。また、β-ヒドロキシアミノ酸以外にも様々な芳香族あるいは脂肪族アルコールを導入することができ、後の類縁体合成へ展開できることがわかった。 続いて、ペプチド伸長に向けてAlloc基の除去を試みたが、脱保護体は不安定であり、反応系中でのN,O-アセタールの分解が見られた。そこで、先にジペプチドとした後、N,O-アセタール形成を行った。ジペプチドに対するN-クロロメチル化はアミド窒素の低い求核性のため全く進行しなかったことから、o-ヘキシニル安息香酸のクロロメチル体に対して、強塩基を用いたN-アルキル化により鍵反応前駆体へ導き、金触媒を用いた活性化により第三級アルコールの導入に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
N,O-アセタール形成の最適条件を確立し、第四級炭素に隣接するアミド窒素を足掛かりにかさ高い第三級アルコールを含む様々なアルコールを導入できることを明らかにした。現在、本研究成果の原著論文を執筆中である。また、ジペプチドに対するN,O-アセタール形成がスタロバシンIの合成に有効な手順であることを見出した。 当初計画していた3,4-ジヒドロキシアルギニンの網羅的合成はほとんど進行しておらず、基質合成を検討中である。
|
今後の研究の推進方策 |
新規N,O-アセタール構築法の最適化に関しては、データを補足して学会および論文発表を行う。また、既に合成法を確立しているカルノサジンラクタムや3-ヒドロキシイソロイシンを用いて、スタロバシンIの鍵骨格であるN,O-アセタール構築を行う。 続いて、当研究室で合成法を確立している(2S,3R,4R)体の3,4-ジヒドロキシアルギニンを用いて、ペプチド鎖伸長の条件を検討する。併せて、他の立体化学を有する3,4-ジヒドロキシアルギニンやα-ヒドロキシ脂肪酸の立体選択的合成法を開発する。 最終工程における脱保護では、N,O-アセタールの分解が懸念されるため、反応条件や保護基の精査が必要である。そのため、合成中間体であるペプチドを用いて、脱保護の検討も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナウイルスの影響により、情報収集や成果発表を予定していた学会およびミーティングのキャンセルが相次いだ。また、R元年度はN,O-アセタール形成の最適化および基質適用範囲の確認に集中していたため、3,4-ジヒドロキシアルギニンの合成に用いる試薬や器具の購入をR2年度に行うこととした。 (使用計画)原料合成の精製過程において、不純物の分離を迅速に行うために中圧分取装置が効果的であることがわかったため、自動精製用フラッシュカラムおよびシリカゲルの追加購入費に充てる。また、ペプチド化合物の同定に用いるESI-TOF-MSの機器使用料に用いる。
|