研究実績の概要 |
枝分かれペプチド構造をもつ抗生物質スタロバシンIの世界初の全合成に向けて、鍵となる第四級炭素に隣接するアミド窒素と第三級アルコールからなるN,O-アセタールの構築を天然物に近い基質を用いて検討した。申請者が独自に合成しているグアニジン含有二環性特殊アミノ酸「カルノサジンラクタム」を含むジペプチドから、鍵反応前駆体への変換を試みた。o-ヘキシニル安息香酸のクロロメチル体を用いたN-アルキル化を行ったが、モデル基質を用いて確立した条件では反応が進行せず、塩基の当量を増加させたり反応温度を上げたりすると基質の分解が見られた。カルノサジンラクタム上のグアニジン窒素が電子求引性基で複数置換されていることから、グアニジン上の電子密度が低下することで強塩基性条件に不安定であることが分かった。一方、アルキル化剤としてMOMClを用いた場合では、中程度の収率ではあるもののN-MOM体が得られ、低温条件下かさ低いアルキル化剤を用いることでグアニジンのNH存在下でも選択的にアミドのNHを修飾できる知見を新たに得た。 また、カルノサジンラクタムのより効率的な供給を目指して、工程数の短縮を検討した。これまでは合成序盤で構築したアジリジン化合物から数工程の変換を経た後、マロン酸ジエチルのダブルアルキル化を行い光学活性な多置換シクロプロパンへ7工程で導いていたが、アジリジン形成と続くダブルアルキル化をワンポットで行う条件を新たに見出し、3工程にまで短縮することに成功した。これにより、全9工程でカルノサジンラクタムへ導くことができた。
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