研究課題/領域番号 |
19K16314
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森崎 一宏 京都大学, 化学研究所, 助教 (80822965)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | C-H結合官能基化 / 位置選択性 / 遠隔位識別 / 超分子 / トポロジカルキラリティー |
研究実績の概要 |
C-H結合の触媒的官能基化は、合成ステップの短縮・合成終盤での効率的誘導体化を可能にする重要な研究課題であるが、多くの有機化合物は反応性の類似したC-H結合を複数有するため選択性制御が本領域の課題である。本研究では、既存系では制御が困難であった直鎖脂肪族化合物のC-H官能基化において高度な選択性を実現する新規制御概念の提示を試みている。 本年度は、柔軟で自由度の高い化合物のの反応点から遠隔位の環境を識別可能な触媒の創製を中心に検討を行い、ビスイミド構造を有する新規不斉ロジウム二核錯体の開発に至った。本触媒は、反応点から遠隔位の不斉識別に優れ、これまで全く前例のない不斉中心から約8オングストローム離れた位置のC-H結合官能基化による遠隔位不斉誘導に成功した(最高91% ee)。本反応系は非常に柔軟な化合物の遠隔位の不斉環境の認識を可能にしており今後の研究発展に繋がる重要な結果であると考えている。 上述したC-H結合官能基化による遠隔位不斉誘導を、トポロジカルキラリティー誘導へと応用した。インターロック分子の一つである[2]ロタキサンは、その構成成分である軸成分・輪成分に非対称性を有する際、"分子の組み方の向き"によりトポロジカルキラリティーを生じる。このようなトポロジカルキラリティーを有する超分子の不斉合成は、可動性と遠隔位認識の困難さから立ち遅れており、触媒的不斉合成の例は高田らの報告に限られており、その選択性も4% eeにとどまっている。上記で開発した触媒系を用いてアキラルなロタキサンのC-H官能基化による不斉非対称化を試みたところ、これまでに最高40% eeでトポロジカルにキラルなロタキサンを合成することに成功している。本反応は、ロタキサンの官能基化度をあげるとともにトポロジカルキラリティーを誘起するもっとも効率的合成法である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生じる不斉中心から約8オングストローム離れた位置のC-H結合官能基化による遠隔位不斉非対称化、およびC-H結合官能基化によるロタキサンのトポロジカルキラリティーの誘起に成功している。これらは、既存の不斉反応の常識を打ち破るものであるとともに、柔軟で自由度の高い化合物の遠隔位認識に成功したことを意味している。また、上記で得られた知見を元に当初の目的である直鎖脂肪族化合物の位置選択的C-H官能基化において選択性の発現を確認している。以上より、当初の想定よりも進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発したビスイミド構造を有する新規不斉ロジウム二核錯体が遠隔位識別に優れていることがわかっている。まず、本触媒がなぜ遠隔位識別に優れているのかを錯体の構造情報および基質の構造と選択性の相関などから推測する。その後、得られた知見を元に位置選択的な官能基化へと応用する。具体的には、上記の識別能を満たしつつ、水素結合・可逆的相互作用によって基質の官能基を認識する触媒を開発していく予定である。 また、今回見出したトポロジカルキラリティーを有するロタキサンのC-H結合官能基化による不斉合成についても最適化および認識機構の解明を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:当初予定していたよりも早く所望の性能を有する触媒の開発に成功し、触媒合成に必要な貴金属の購入を抑えることができた。また、生成物の分離が予想より容易であったため、分離用のTLCの購入を抑えることができた。 使用計画:申請者の所属する研究室には核磁気共鳴装置・質量分析装置・HPLC・単結晶X線回折装置など必要な設備は整っている。そのため、新たな設備備品費は特に必要としない。一方、本研究では種々の化合物の合成必要となる。また、生成物の効率的分離・解析が鍵となるためHPLC用の溶媒 ・分取TLCなどが必要と見込まれる。また、活性中心となるロジウムなどの金属の購入を考えている。国内外の学会へ参加するための旅費を必要とする。(年に2~3回程度、最終年度には国際学会にて発表予定)また、現有の設備の保守・修理費が必要と見込まれる。また、国際学術誌へ研究結果を投稿するための費用も必要とする。
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