昨年度までに、遠隔位認識に優れた新規二核ロジウムテトラカルボキシラート錯体の開発、本錯体を用いたC-H結合官能基化による6結合遠隔位への不斉誘導とロタキサンの不斉非対称化に成功していた。 本年度は主に、上述したC-H結合官能基化による遠隔位不斉誘導の不斉誘導機構解明を中心に行った。種々の錯体を用いて対照実験を行なったところ、本遠隔位認識には新規二核ロジウムテトラカルボキシラート錯体のピロメリット酸ジイミド構造が重要であることがわかった。分光学的測定・量子化学計算を行なったところ本錯体が反応に活性なロジウムの周りにC4対称の深く狭いキラルなポケットを形成するが示唆された。また、活性種であるロジウム-ナイトレンの構造を予測したところ環境の対称性が崩れ、反応点周りの3方がligandの置換基によって塞がれていることが示された。種々の基質を用いた対照実験を行った結果、本錯体はLewis塩基部位をピロメリット酸ジイミド構造の芳香環C-H結合との水素結合によって認識しており、反応点周りの狭い空間に基質が誘導され直鎖構造の配座が規定されると共に、水素結合により不斉中心上のプロキラル中心上の配座が固定されることが本不斉誘導の鍵と結論づけた。 また、これらの結果を基に、より遠隔位に水素結合可能な芳香環C-H結合を有するナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造を有する錯体を開発した。本錯体を用いることで、さらに遠隔位の7結合遠隔位での不斉誘導も他性した。本錯体は当初の目標であった、柔軟な直鎖化合物の位置選択的C-H官能基化に適用可能であり、末端から2炭素目でのC-H官能基化が優先して進行することを確認した。 ロタキサンの不斉非対称化の検討も引き続き行った。種々のロタキサンに対し位置および化学選択的にC-H結合アミノ化が進行したものの、キラルなロタキサンの分離が困難であり、そのエナンチオ選択性に関しては未解明である。
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