研究実績の概要 |
生体内には不要になった物質を分解するための, スルファターゼと呼ばれる酵素がある. スルファターゼを構成するアミノ酸が, 本来のものとは別のものに置き換わると, スルファターゼの機能がなくなり, 疾患を引き起こすことがある. 本研究の目的は, このような異常なスルファターゼに結合することで, 機能を回復させる化合物を作ることである. 前年度までの検討結果から, フェニルボロン酸と呼ばれる化合物がスルファターゼの機能を回復させ得ると考えられた. したがって, 今年度はフェニルボロン酸のフェニル基部分に種々の置換基を導入し, よりスルファターゼに結合しやすいものの取得を目指した. 通常認められるような置換基同士の相加作用は, 本研究では認められなかったものの, 無置換のフェニルボロン酸より優れた化合物をいくつか見出せた. 本研究ではスルファターゼの中でも, ムコ多糖症VI型という疾患の原因となるアリールスルファターゼBに注目して検討を行った. 上で見出したフェニルボロン酸の誘導体を, 正常なアリールスルファターゼBに作用させたところ, 安定化作用が認められたことから, フェニルボロン酸の誘導体はアリールスルファターゼBに結合すると考えられる. 一方で, ムコ多糖症VI型の原因となる異常なアリールスルファターゼBに関しては, 安定化作用も機能を回復させる作用も認められなかった. ムコ多糖症VI型の原因となるアリールスルファターゼBの異常はいくつも報告されているので, 別の種類のものについても今後検討する予定である. スルファターゼの異常に起因する疾患の一部には治療法が見出されているが, それらは患者にとって負担が大きいものである. 本研究の発展により, 将来的にはこれらの疾患を通常の飲み薬で治せる可能性が出てくると期待される.
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