研究課題/領域番号 |
19K16321
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
花屋 賢悟 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 講師 (50637262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アミノ酸 / ペプチド / 化学修飾 / ボロン酸 |
研究実績の概要 |
タンパク質の翻訳後修飾のように、タンパク質上の特定のアミノ酸残基を人工的に化学修飾すれば、その機能、細胞内局在、分解などを制御できうる。申請者は以前、ホウ素原子を含む分子であるボロン酸と、遷移金属イオンを用いて、タンパク質中のシステインまたはピログルタミン酸のみを選択的に化学修飾する手法を確立した。本研究では、ボロン酸と銅イオンから生じるラジカル分子を利用して、上記とは異なるアミノ酸、特にチロシンの化学修飾法を開発することを目的として研究した。まず、ボロン酸から効率的にラジカル分子を発生させるには銅イオンと相互作用する部分構造が必要であると考え、分子内にアミノ基を有するボロン酸を複数設計、合成した。これらのボロン酸を銅イオン存在下、種々のペプチドと反応し、その反応液をMALDI-TOF MSやHPLCで分析、評価した。反応温度、反応p H、緩衝液の成分などの反応条件を検討したところ、pH 10のホウ緩衝液中、75 ℃で反応させると、ペプチドの化学修飾が進行することを見出した。銅イオンの代わりに他の遷移金属イオンを用いた場合にも、同様に化学修飾されたペプチドが観測されたことから、ラジカル反応ではない反応機構の存在も示唆された。実験に用いた複数種のペプチドのアミノ酸配列の比較から、当初期待した通り、チロシンが化学修飾されたと結論した。しかし、生成したチロシンの化学構造の詳細は明らかにできていない。 遷移金属イオンとして亜鉛イオンを用いてpH 10、75℃で、アジド基を導入したボロン酸を用いてチロシン含有ペプチドを化学修飾した。その後、アジドとアルキンの特異的な反応(クリックケミストリー)を利用して、ビオチン化ペプチドの創製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した通り、研究計画の1年目はChan-Lamカップリングまたはラジカル反応を基盤としたアミノ酸化学修飾法を検討した。従来のChan-Lamカップリングの条件ではシステイン、ピログルタミン酸以外のアミノ酸の化学修飾は見出せなかった。一方、銅イオン存在下、構造を工夫したボロン酸を作用させることによりチロシンが化学修飾されることを見出した。銅イオンを他の遷移金属イオンに替えてもチロシンの化学修飾が進行したことから、当初期待したラジカル反応ではない反応機構も強く示唆された。現状、最適とした反応条件はpH 10、75℃と過酷で、このままでは交付申請時の研究計画2年目に予定していたタンパク質の化学修飾に適用できない。さらなる反応条件の検討が必要であるものの、チロシン選択的な反応を見出したという点でおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に、種々のペプチドに分子内に窒素原子を有するボロン酸を、遷移金属イオン存在下、pH 10のホウ緩衝液中、75 ℃で反応させると、チロシン残基が化学修飾されることを見出した。実験の結果、ラジカルを経由する反応機構の他に複数の反応機構の存在が示唆されたが、いずれもボロン酸からラジカル分子またはその他の活性中間体が生成する段階に高温を要すると考察した。そこで、研究計画2年目は、光エネルギーを利用してラジカルを発生させることができる可視光レドックス触媒を利用する。ボロン酸とペプチドの混合物に、イリジウム錯体またはルテニウム錯体存在下、室温で光照射し、その反応液をMALDI-TOF MSやHPLCで分析、評価する。現在、複数の可視光レドックス触媒が市販されている。ボロン酸に含まれる炭素―ホウ素結合の結合解離エネルギーに応じて、可視光レドックス触媒を変化させる。そして、最適とした反応条件で、タンパク質中のチロシンの化学修飾を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1,129円の次年度使用額が生じたが、執行率はほぼ100%で概ね計画通りに使用している。2020年度の交付請求書と併せて、研究計画を遂行するための物品費、および研究成果を発表するための旅費、学会参加費として使用する予定である。
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