2020年度までは野生型受容体と変異型受容体に対して作用の異なる薬(リガンド)の探索・開発研究をclass CのGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一つである代謝型グルタミン酸受容体サブタイプ1(mGlu1)を対象として実施し、mGlu1選択的な阻害剤の誘導体の一つが野生型mGlu1を阻害する一方、ある変異型mGlu1は阻害しないという興味深い結果を得た。さらにこの結果に関するメカニズムを調査し、阻害剤の誘導体が野生型mGlu1にはネガティブアロステリックモジュレーター(NAM)として結合し、変異型mGlu1にはサイレントアロステリックリガンド(SAL)として結合することを明らかにした。 2021年度はclass AのGPCRに対してこれまでと同様のアプローチにより野生型受容体と変異型受容体に対する作用の異なるリガンドの探索研究を実施した。その結果、細胞外ループ部位への変異導入によってアデノシンA2A受容体(A2AR)やドパミンD1受容体(D1R)において野生型受容体と変異型受容体の間で数百倍から数千倍有効阻害濃度が異なるリガンドを発見することができた。この結果はこれまでの研究で培ってきたアプローチがclass Cだけでなくclass AのGPCRにも適用できることを示しており、受容体の細胞外ループ部位への変異導入によってリガンドの結合性を大きく変化させるケモジェネティックアプローチが幅広いGPCRに適用可能であることを示唆している。
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