研究課題
令和2年度は薬物濃縮相の安定化メカニズムの解明を目的とし、緩衝液中において薬物濃縮相を形成させ、各種物性評価を行った。まず初めに薬物濃縮相からの薬物結晶化に及ぼすポリマー種の影響について検討を行った。HPMCおよび、HPMC acetate (HPMC-Ac)、HPMC acetate succinate (HPMC-AS)を用い、各種ポリマーによる結晶化抑制作用を比較評価した。その結果、HPMC、HPMC-AS、HPMC-Acの順に薬物濃縮相からの結晶化抑制作用が強くなることが示された。溶液NMRにより薬物濃縮相中への各ポリマーの分配率を評価した結果、HPMC-Acにおいて薬物濃縮相へのポリマー分配率が最大となりHPMC-AS、HPMCの順に分配率が低下することが示された。薬物非晶質ドロップレットに混合したポリマー量が増加することで薬物濃縮相中の薬物分子運動性が低下し、薬物結晶化がより強く抑制されたと考察した。続いて、水中における各ポリマーの薬物濃縮相分散安定化作用について検討を行った。HPMCおよびHPMC誘導体溶液中において薬物非晶質ドロップレットの形成が観察され、特にHPMC-AS溶液中において数十nmのドロップレットの形成が認められたた。前述したように、HPMCと比較してHPMC-AcやHPMC-ASは水相中か薬物濃縮相へより多く分配することが認められている。加えて、HPMC-ASは置換基にカルボン酸を有しており、負に荷電したHPMC-ASが薬物非晶質ドロップレット表面に吸着することにより、薬物非晶質ドロップレット間に静電的反発力が働き、液滴同士の合一を抑制すると考えられる。HPMC-ASの混合によるOstwald熟成抑制および表面吸着したHPMC-ASによる合一抑制作用が相乗的に働き、薬物非晶質ドロップレットが数十nmのサイズに維持されたと考察した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定した薬物濃縮相の安定化メカニズムの解明まで終えることができた。
令和3年度は令和1年度及び2年度の検討事項に基づき固体分散体の処方設計を行い、溶出試験により薬物濃縮相形成能及び形成後の安定性を評価する。加えて、調製された薬物濃縮相形成型固体分散体製剤からの経口吸収性をラットを用いたin vivo経口吸収性試験にて評価を行う。従来の固体分散体製剤や薬物ナノ結晶製剤と薬物経口吸収性を比較し、薬物濃縮相形成型固体分散体製剤の経口投与製剤としての優位性を示す予定である。
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