本研究では、白血球が有する特性、すなわち炎症血管内皮へ接着し、がん組織深部や脳梗塞部位へ浸潤する特性を付与した白血球模倣ナノ粒子の開発を目的とした。 本年度は、ヒト前骨髄性白血病細胞HL-60細胞を白血球モデルとして使用し、リポソームへの細胞膜タンパク質の再構成法である脂質膜間移行法により白血球模倣リポソーム(Leukocyte-mimetic liposome: LM-Lipo)を構築し、LM-Lipoのがん組織深部への浸透能を明らかとすべく検討を行った。LM-Lipoをヒト肺がん細胞株であるA549細胞に添加したところ、膜タンパク質移行処理を行っていないリポソームと比較して時間依存的かつ有意に高い細胞内取り込みを示した。また、A549スフェロイドを作製し、in vitroにおいてLM-Lipoのがん組織浸透性を評価したところ、LM-Lipoのスフェロイド内部への浸透が観察された。さらに、抗がん剤ドキソルビシン(DOX)内封LM-Lipoを構築し、A549スフェロイドに処理したところ、DOX内封リポソーム処理群と比較して有意にスフェロイド成長を抑制した。これらの結果から、LM-Lipoは炎症血管内皮の透過能のみならず、がん組織浸透能を有し、内封抗がん剤によりスフェロイド成長を効果的に抑制したことが示唆された。また、A549皮下担がんマウスを作製し、蛍光標識したLM-Lipoを尾静脈内投与した6時間後における、腫瘍組織へのリポソーム集積性を蛍光イメージングにより評価したところ、コントロールリポソームと比較して有意に高い腫瘍集積を示した。このことから、脂質膜間移行法によりリポソーム膜へ移行した白血球膜タンパク質が、in vitroのみならずin vivoにおいても機能を発揮し、それによりLM-Lipoが腫瘍への高い集積性を示したことが示唆された。
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