研究課題/領域番号 |
19K16337
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
渕上 由貴 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 客員研究員 (60736403)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / 標的指向化 / リポソーム / がん |
研究実績の概要 |
次世代型のDDS医薬品としてリガンド分子を搭載した標的指向型PEGリポソームの実用化が望まれているが、上市に至っていない。本研究では、血中安定性が高くインテグリンαvβ3に強く結合するcyclo-(RGDfK) (cRGD)をリガンドとする高機能・高品質 (HFQ) 脂質修飾PEGリポソームの開発をおこなっている。2020年度はまずcRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソームの担がんモデルマウスに対する腫瘍集積性評価をおこなった。本製剤を静脈内投与した結果、予想と反してPEGリポソームと比較して腫瘍への集積性が低く、肝臓での高い集積が認められた。これはcRGDリガンドを修飾することで、PEGリポソーム表面の疎水度が高まり、肝臓に捕捉されやすくなってしまったと推察される。一方で、cRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソームはインテグリンαvβ3高発現のマウス由来大腸がんColon26細胞に強い結合を示すため, 腹膜播種モデルに対する腹腔内投与型ナノキャリアに適用できるのではないかと考えた。そこで、リモートローディング法を用いてドキソルビシン (Dox)を内封したcRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソームを調製した。Colon26細胞に対するDox集積性を評価したところ、PEGリポソームと比較して強いDox由来の蛍光が観察された。Dox単剤では、細胞核にほとんどが集積していたのに対してcRGD-SG脂質修飾群では細胞核に加えてエンドサイトーシスに起因すると考えられる細胞核外にも多くのDox蛍光が観察された。実際に細胞傷害性を評価したところPEGリポソームよりも優れた殺細胞効果が認められた。以上より、Dox内封cRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソームは、ドキソルビシン送達における優れたナノキャリアである可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固相合成法を用いてクリック反応の反応点であるアジド基をcyclo(-RGDfK)に、アルキル基をHFQ脂質に導入したものをそれぞれ合成し、クリック反応を用いて水への高い分散性を示すcRGD-HFQ脂質の反応条件の最適化に成功した。本脂質の機能性を明らかにするため、cRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソームのインテグリンαvβ3高発現のマウス由来大腸がんColon26細胞に対する細胞結合性および細胞内動態を明らかにした。cRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソームを担がんモデルマウスに対して静脈内投与したところ、予想と反して腫瘍への集積性が低かったもののドキソルビシンを内封薬物キャリアとして殺細胞効果を示すことを明らかにした。また、予備的な検討ではあるが超高速ナノ医薬作製装置Nanoassemblrを用いたcRGD-HFQ脂質とPEGリポソームの混合はわずか1分足らずでColon26細胞に対して高い細胞結合性を示すcRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソームの調製を可能にした。以上、静脈内投与による腫瘍集積性が認められず計画とは異なるもののcRGD-HFQ脂質の合成手法およびドキソルビシン送達を可能にするcRGD-HFQ脂質修飾PEGリポソーム製剤の開発を達成したことから概ね順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでの研究結果を踏まえて以下の2点に取り組む。 ① Colon-26-Luc細胞移植腹膜播種モデルマウスにHFQ脂質修飾リポソームを腹腔内投与し、in vivoイメージングシステムIVISを用いた経日的な腫瘍増殖能の評価をおこない、in vivoでの治療効果を検証する。 ② 水への溶解性を考慮して設計・開発をおこなったHFQ脂質が、超高速ナノ医薬作製装置を用いて精巧かつ高い再現性でリポソームにポストインサートできる調製法の条件の最適化する。具体的にHFQ脂質の修飾量・装置上での溶液混合比の条件を最適化をおこない、物理化学的特性や修飾率の算出を評価項目と定め、GMP規格化を見据えた調製法の確立を目指す。
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