本研究の目的は、がん治療への医療実現化を目指した環状RGDペプチド修飾PEGリポソーム製剤の開発である。まず、リポソーム表面にポストインサート法を用いて環状RGDを導入するために、水に高分散できる新規アダプター脂質を開発した。次に、環状RGDペプチド修飾Azideとクリック反応を用いて、新規環状RGD修飾脂質の合成を行った。通常用いられるインキュベーション法により環状RGD修飾リポソームを調製したところ、新規環状RGD修飾PEGリポソームのζ電位はほぼ中性、PDIは約0.2とPEGリポソームと同様の物理化学的特性を有していた。しかし、マウス大腸癌細胞株colon26への細胞結合性は顕著に増大し、環状RGDが認識されていることが示された。ドキソルビシン封入環状RGD修飾リポソームにより、ドキソルビシンが高効率にがん細胞の核に送達することができ、抗腫瘍効果を改善できた。担癌モデルマウスにおける腫瘍への到達性はPEGリポソームと同等であり、改良が必要であった。一方、従来のインキュベーション法は安定性や工業化のスケールアップに問題があり、これらを解決できるマイクロ流体を用いたPEGリポソームと環状RGDの迅速な混和による新たなリガンド修飾法の開発に取り組んだ。流速や混合比の最適化を通じて、約1分間の迅速混和によるマイクロ流体法による調製を行い、環状RGDペプチド修飾PEGリポソームの物理化学的性質とcolon26細胞への細胞結合性を評価したところ、従来の1時間60℃のインキュベーション法で調製した場合と同様の物理化学的性質と細胞結合能を有していた。以上、様々なリガンド分子をクリック反応で導入でき、また、水に高分散可能な新規アダプター脂質と環状RGDペプチドをPEGリポソームに修飾できるマイクロ流体法の開発に成功した。
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