研究課題/領域番号 |
19K16338
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
中山 辰史 岐阜薬科大学, 薬学部, 講師 (50433206)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気化学 / スーパーオキサイド / 酸化 / 非プロトン性溶媒 / タンパク質凝集 / アルキルアンモニウム塩 / 排除体積効果 |
研究実績の概要 |
当該年度は、電気化学測定を中心に、タンパク質のスーパーオキサイド(Superoxide Anion Radical;SAR)による酸化を検証した。酸化的電子移動解析には、非プロトン性溶媒中(N,N-dimethylformamide)での電気化学測定(Cyclic Voltammetry法)を用い、スーパーオキサイド-タンパク質間の電子移動を解析した。SARは、酸素の一電子電極還元により生成させ、タンパク質を共存させた際の電流電圧曲線の変化により反応を観察した。その結果、複数のモデルタンパク質(リゾチーム、アルブミン)において、酸素の電流-電圧曲線が、タンパク質の種類により異なる変化を示した。この結果は、生成したスーパーオキサイドによるタンパク質の酸化反応が、タンパク質の構造特性を反映して進行したことを示唆している。この反応では、まず最初にタンパク質表面のプロトンが塩基性であるスーパーオキサイドによって引き抜かれ、それに後続する電子移動が進行する様子を示した。これらは、電極での直接酸化とは異なるタンパク質の酸化挙動であり、電極電位に依存しないSARとタンパク質構造の特異的な反応性に由来すると推察される。 次に、SARによる酸化反応の生成物について、円二色偏光(CD)によるα-ヘリックス構造の変化を解析した。その結果、電気化学測定で得られた反応電子数以上に、アンフォールディングに対応するαヘリックス構造の変化を観測した。この結果は、SARによるタンパク質の酸化が、タンパク質表層の酸化よりもα-ヘリックスの立体構造を維持する内部構造の酸化に及んでいる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電気化学手法では、金属の電極表面(10nm 程)に発生する電気二重層が電場となって 酸化反応が進行する。この測定環境を実現するために、充分な量の支持電解質を加えて測定することが一般的であり、有機溶媒にはバルキーな支持電解質(Tetrabuthylammonium perchlorate;TBAPなど)を加えるため、溶媒中で大きな体積を占め、タンパク質の溶解度と立体構造に大きな影響を与えてしまう。 SARによるタンパク質の立体構造内部の酸化を評価するためには、この排除体積効果を見積もったうえで、酸化電流とタンパク質の立体構造変化との相関性を観測する必要がある。そのため、まずはTBAPなどの電気化学測定に必須の塩が与える排除体積効果に関する知見を得て、タンパク質酸化時の立体構造変化の値から差し引くための検討を行っている。 また一方で、当研究で採用するSARのECE反応では、電極表面で生成するSARがタンパク質内部を酸化するが、ヘリックス構造(立体構造)の破綻以外に、フラグメント化・βシート化による凝集も引き起こす。これらの変化は、同様に高濃度TBAP塩の添加によっても引き起こされるため、ヘリックス構造変化以外の構造変化についても、高濃度TBAP塩の効果を差し引いた検証をするための対照データを得るための実験を実施している。 これにより、分子内結合の破壊・アンフォールディングを含む立体構造変化が、SARのタンパク質内部酸化とどのように関係するのかを正しく評価でき、タンパク質の老化に繋がる内部酸化と凝集・アミロイド化の重要な知見が得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
電極での直接酸化と、酸素の一電子還元によって生成したSARによる間接酸化のそれぞれについて、電子移動直後のタンパク質のコンフォーメーション変化を観測し、立体構造変化と酸化的電子移動の関係性を解析する。その際に、電気化学測定時に利用する有機溶媒用支持電解質(TBAP)の効果を差し引いて評価し、SARによる酸化の実態を明らかとする。 その際、特にタンパク質のアンフォールディング(αヘリックス構造の破綻)と、βシート構造の形成の関連に着目しており、それぞれ円二色偏光(CD)スペクトル、Coomassie Brilliant Blue R-250(CBB)染色を用いた蛍光測定により、酸化後のタンパク質の状態を観測することで、タンパク質構造中の酸化ターゲット部位を予測する。 併せて、モデリング計算により上記酸化反応を解析する。量子科学的な反応予測(反応経路解析、軌道エネルギー計算)については、反応全体を計算解析することは難しいため、まずは非断熱的(垂直型)電子移動 により生成する酸化体の軌道エネルギー・自由エネルギーを算出する。その後、コンフォー メーション変化と反応経路についてスペクトル解析の結果と比較し、予測の妥当性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関における人件費使用の規則で、期間を隔てて(年度を隔てる等)同一人物をアルバイト雇用することが困難であったため、実験計画における実施順序と共にアルバイト雇用計画を変更した。これに伴い、三年にわたって毎年1-2カ月程度雇用する予定であったアルバイトを今年度集中的に雇用した。そのため、当初初年度に購入予定であった実験用具や試薬を、翌年度に繰り越して購入することとし、そのための予算を次年度使用額として計上した。
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