研究実績の概要 |
当該年度は、電気化学測定・電解ESR測定・分光測定を中心に、タンパク質、構成アミノ酸の電解生成スーパーオキサイド(Superoxide Anion Radical;SAR)による間接酸化 を観測し、更に電子移動直後のタンパク質のコンフォーメーション変化、立体構造変化と酸化的電子移動の相関性を検証した。 酸化的電子移動解析には、非プロトン性溶媒中(N,N-dimethylformamide)での電気化学測定(Cyclic Voltammetry法)を用い、スーパーオキサイド-アミノ酸・タンパク質間の電子移動を解析した。また、量子化学計算の結果と併せて理論的な解釈により、反応メカニズムについて分子論的な解析を加え、以下について明らかとなった。 ①含硫アミノ酸を有するタンパク質において、他のアミノ酸残基に見られない電流変化を観測した。この結果は、スーパーオキサイドとタンパク質内の硫黄元素の反応が、硫黄特異的なSS結合と関係して進行したことを示唆している。SS結合は還元されて容易に解離するが、活性酸素種が共存しているとラジカル付加反応を起こし、SSが再形成できなくなる。このラジカル付加反応こそが、タンパクの凝集・変性を引き起こす化学反応であると推察された。 ②硫黄元素の酸化的電子移動が、硫黄元素のπ軌道上にスピンが非局在化する場合には特殊なSS以外の結合を形成する様子が確認された。タンパク質の活性酸素種による酸化において、SS結合以外の硫黄元素の反応性が関与することが明らかとなり、タンパク質立体構造維持において、一定の役割を果たすことが示唆される結果となった。 ③タンパク質の溶解度が、電気化学測定における支持電解質の排除体積効果に大きく影響を受けることが明らかとなった。この結果は、タンパク質の溶解度が電気化学測定で採用されるバルキーな電解質の排除体積効果に大きく影響を受けることを示唆した。
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