研究実績の概要 |
本研究は、テトラゾラト架橋白金(II)二核錯体(テトラゾラト架橋錯体)の細胞内蓄積に関与するトランスポーターを同定することで、テトラゾラト架橋錯体の作用機序の一端を解明し、大腸がん治療薬オキサリプラチンに対して耐性を示すがんにも有効なテトラゾラト架橋錯体の創出へ寄与することを目的とする。 オキサリプラチンを長期反復暴露した大腸がん細胞のシングルセルクローニングによって、複数のオキサリプラチン耐性ヒト大腸がん HCT116 細胞株(HCT116R細胞株)を樹立した。前年度までに、その一つの細胞株において、テトラゾラト架橋錯体のリード化合物5-H-Yは、オキサリプラチンに交叉耐性を示すことが明らかになった。本細胞株においては、5-H-Yの細胞内蓄積量が有意に減少することも確認された。一方で、本年度は別のHCT116R細胞株を用いてin vitro細胞増殖抑制活性を調べた結果、5-H-Yはオキサリプラチン耐性を克服することが分かった。複数の5-H-Yの誘導体についてもin vitro細胞増殖抑制活性を調べた結果、特にエステル基導入による誘導体化がオキサリプラチン耐性がんに有効であることが示唆された。 競合阻害物質を用いて細胞内蓄積量の変化を調べた結果、5-H-Yの細胞内/外への輸送に、それぞれ有機カチオントランスポーター(OCT)/Na, K-ATPaseが関与していることが分かった。本年度は、OCTのアイソフォームの同定を行うために、realtime RT-PCR法によってmRNA量を測定したが、発現量が少なく同定に至らなかった。また、二次元電気泳動ディファレンシャル・ディスプレイ解析結果について精査したところ、HCT116細胞およびHCT116R細胞間で新たな6つのトランスポーターの発現が増加していることが明らかになった。
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