本研究では生体試料中の微量代謝関連キラルアミノ酸を対象として高選択的な分析を可能とする多次元キラルHPLC法を構築し、血中および尿中のキラルメタボローム解析を用いた精神・神経疾患の早期診断法を開発する。2022年度までに代謝関連キラルアミノ酸として尿素回路関連アミノ酸であるシトルリンおよびオルニチン、リジン代謝物であるピペコリン酸および2-アミノアジピン酸、チロシン異性体であるo-、m-およびp-チロシン、アミノ酪酸構造異性体であるα-アミノ酪酸およびβ-アミノ酪酸を分析対象として選定し、三次元HPLCシステムを用いた分析法を開発してきた。これを受けて、2023年度は構築した分析法を様々な生体試料の分析へと適用し、キラルアミノ酸の生体内含量解析を行った。 オルニチンとシトルリンを対象としてD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の欠損に伴う含量および%D値変化について解析を行った結果、これまでに得られたマウス尿試料における%D値の変化に加え、マウス血中においてもオルニチンの%D値が有意に増加することが明らかとなったほか、その他の生体組織においても欠損に伴う変化が認められた。 また、健常人を対象として尿試料中のリジン代謝物およびアミノ酪酸鏡像異性体の日内含量および%D値の変化を解析した。その結果、リジン、ピペコリン酸、β-アミノ酪酸が食事の摂取を経ても%D値の変化を示さなかったことに対し、2-アミノアジピン酸は%D値の減少、α-アミノ酪酸は%D値の増加を示すことを明らかにした。
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