研究課題/領域番号 |
19K16344
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
能代 大輔 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 博士研究員 (90751107)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オートファジー / 液ー液相分離 / 液滴 / 高速原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
オートファジーは、酵母からヒトに至る真核生物に保存された機構であり、タンパク質や細胞内小器官、異物等をリソソーム(液胞)へ輸送し分解する。オートファジーが開始されると隔離膜が分解対象物を取り囲み、オートファゴソームが形成されリソソーム(液胞)と融合する。酵母において、隔離膜形成には前オートファゴソーム構造体(PAS)が重要な役割を持ち、その足場はAtg1-Atg13-Atg17-Atg29-Atg31タンパク質複合体によって形成されるが、この複合体は液―液相分離して球状の「液滴」となることが見出された。このような「液滴」は膜で覆われていないものの内部に高濃度のタンパク質が保持されている。 本研究は、蛍光顕微鏡一体型の高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いて解析することで液滴の構造的な理解を深め、隔離膜形成メカニズムの解明につなげることを目指して開始した。 本年度は、S字状タンパク質Atg17を含む四者複合体Atg13-Atg17-Atg29-Atg31の液滴の高速AFM観察を行い、ガラス基板上に固定した液滴上ではAtg17がランダムに配置されている様子が捉えられた。興味深いことに、アミノシラン処理したガラス基板上で同様の観察を行った場合、Atg17の配置は規則的であった。これは、ゲル化が進行し液滴の性質を失った構造体の姿を捉えたものと考えられる。 一方、出芽酵母において、選択的オートファジーの基質であるアミノペプチダーゼⅠ(Ape1)複合体が液―液相分離により液滴を形成すること、また液滴の凝集体化を引き起こすP22L変異は、オートファゴソームへのApe1の取り込み効率を大幅に低下させることが見出されていたが、この液滴についても高速AFMにより観察を行い、変異体の液滴表面における分子の運動性は、野生型の場合と比較して著しく低下していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、蛍光顕微鏡一体型の高速AFMを用いて、試験管内で形成させたAtg13-Atg17-Atg29-Atg31複合体の液滴と、Ape1複合体およびその変異体の液滴を観察することに成功した。Atg13-Atg17-Atg29-Atg31複合体の液滴の観察結果はNature誌に、Ape1複合体およびその変異体の液滴の観察結果はMolecular Cell誌にそれぞれ掲載された。表面のタンパク質分子の配置がランダムで運動性の高い液滴状態と、規則的で運動性の低いゲル状態の両方を可視化することに成功しており、研究計画は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きオートファジー関連タンパク質で液滴を形成するもの、あるいは液滴の形成に関与するものについて、高速AFMを用いた観察を進めていく。それと同時に、高速AFMで細胞の内部に生じた液滴をイメージングする方法を探っていく。
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