研究課題/領域番号 |
19K16344
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
能代 大輔 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 博士研究員 (90751107)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オートファジー / 液―液相分離 / 液滴 / 高速原子間力顕微鏡 / 天然変性タンパク質 / リン酸化 |
研究実績の概要 |
オートファジーは、酵母からヒトに至る真核生物に保存された機構であり、タンパク質やオルガネラをリソソーム(液胞)へ輸送し分解する。オートファジーが始動すると隔離膜が分解対象物を取り囲み、オートファゴソームが形成されリソソーム(液胞)と融合する。酵母において、隔離膜形成には前オートファゴソーム構造体(PAS)が重要な役割を持ち、その足場はAtg1-Atg13-Atg17-Atg29-Atg31タンパク質複合体によって形成されるが、この複合体は液―液相分離して「液滴」として存在することが見出された。本研究は、オートファゴソーム形成メカニズムの解明のため、高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いて液滴の構造的な理解を深めることを目指す。 本年度は前年度に続き、哺乳動物への研究の展開として、ヒトの選択的オートファジー受容体タンパク質p62/SQSTM1(以降p62)液滴について実験を進めた。p62はポリユビキチン鎖との結合により液滴を形成する。p62のユビキチン結合領域UBAのS403, S407のリン酸化はユビキチンとの結合を増強させるが、そのリン酸化ミミック体p62S403E_S407Eはポリユビキチン鎖と結合すると、野生型の場合よりサイズが大きく、より球形に近い液滴を形成することを明らかにした。また、p62はストレスセンサータンパク質Keap1の結合領域KIRを持つが、KIRのS349のリン酸化はKeap1との結合を増強させる。そのリン酸化ミミック体p62S349EとKeap1を結合させた後ポリユビキチン鎖を加えた場合、液滴状の構造物ではなく、細い繊維状の凝集体が形成された。野生型やp62S403E_S407Eを用いた場合はKeap1の有無に関わらず液滴を形成したため、S349のリン酸化及びそれに続くKeap1の結合は、液滴の形成を妨げることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p62はポリユビキチン鎖との結合によって液―液相分離して液滴を形成するが、UBAのリン酸化により、より「液」の性質の強い液滴を形成することが分かった。また、Keap1の存在下におけるKIRのリン酸化ミミック体は、ポリユビキチン鎖と結合すると、液滴とは形状の大きく異なる線維状の構造物を形成することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内においてp62液滴に局在することが示された他のタンパク質についても調製を行い、液滴の性状にどのような影響を与えるか、引き続き調べていく。 また、調製した全長のp62及びリン酸化ミミック体の高速AFM観察を行う。また、ポリユビキチン鎖との結合の様子がKeap1の有無、リン酸化ミミック変異でどのように変化するか、観察を行う。 さらに、細胞内に生じた液滴の高速AFM観察を試みる。
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