研究課題
腸内細菌は、それぞれが別々の影響を宿主に与えていると明らかになりつつあるが、その相互作用機構はほとんど解明されていない。本研究ではショウジョウバエの消化管を用いて、ヒト腸内細菌と消化管に発現する受容体を再構成する。本研究の目標は、ヒト腸内細菌とヒト消化管細胞の相互作用をショウジョウバエを用いて解析する新規の有用な実験系を確立することである。この実験系を用い、ヒト消化管受容体を活性できる特異的な腸内細菌と受容体のリガンド同定を目指す。研究代表者らは、無菌のショウジョウバエを長期間安定的に維持する世界初の方法を確立している。そこで、ヒトの消化管に発現する遺伝子を組み込んだショウジョウバエを定法により樹立し、無菌化を行う。そのハエを用いて、さまざまなヒト腸内細菌を定着させたノトバイオートハエを作製し、受容体の活性化を組織イメージング等により検出する。今年度は、受容体の活性化の検出系のコンストラクト作成およびショウジョウバエ系統の作出を完了した。そして、ショウジョウバエ系統についてはTANGO法を行うための交配を開始し、必要な系統の作出を進めている。受容体活性化検出のコンストラクトについて、受容体Xの活性化を検出するため、ショウジョウバエのS2細胞にコンストラクトをトランスフェクションして検討した。その結果、受容体Xのリガンド濃度依存的な活性化を検出することができた。ヒトGPCRの活性化をショウジョウバエ培養細胞で検出できたという報告は少ないため、新しい成果である。
3: やや遅れている
受容体の活性化の検出系のコンストラクト作成に時間がかかり、作成したコンストラクトが培養細胞で機能することは確認できたが、個体を用いて検証するまでには至っていない。
今後は、作出したショウジョウバエ系統の交配を進め、個体内でGPCRの活性化を検出できる実験系を確立する。次に、マウス消化管に発現する20種類程度のGPCRについて、確立した「ヒト化ショウジョウバエ」の手法でトランスジェニックを作出し、腸管内容物や腸内細菌をハエに摂食させ、異種発現したGPCRが反応するか明らかにする。消化管の内分泌細胞に選択的に発現するGPCRを見出している。これらをヒト化ショウジョウバエとして発現させ、マウスの消化管内容物をハエに摂食させ、GPCRの活性化が見られるか検討する。活性化した場合は、無菌マウスの消化管内容物を摂食させて同様の実験を行う。活性化が見られない場合は、そのGPCRは腸内細菌由来(もしくは腸内細菌によって変換される食餌成分)の低分子化合物を認識していると結論する。マウスの消化管内容物をそのまま用いると混合度が高すぎるかもしれない。そこで、古典的な溶媒抽出法などで粗分画した画分を摂食させることも試みる。加えて、マウスやヒトの腸内細菌は多数単離されているため、それらを単独もしくは混合してハエに摂食させてGPCRの活性化を検討する。
レポーターショウジョウバエ系統の作成が予定より少し遅れたため、ハエの飼育費用やレポーター活性を測定する試薬の購入費用が浮いたことにより次年度使用額が生じた。これらの実験は次年度に行い、その他の実験も研究計画に従って予定通りに実施するため、助成金は次年度に全額使用する予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Nature Communications
巻: 11 ページ: 1830
doi: 10.1038/s41467-020-15664-4.
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doi: 10.5582/ddt.2019.01075