乳汁中には成長因子や免疫調節因子など多種多様な生理活性物質が含まれ、直接または間接的に細胞の増殖・成熟を促すことが知られているが、母乳中には機能未知の成分が未だ多く、新生児期の発達と母乳栄養の関連は十分に解明されていない。 プリンヌクレオチド代謝酵素として知られるアデノシンデアミナーゼ(以下ADA)にはADA1とADA2のアイソザイムが存在し、健常人の血中のADA活性はADA2が60-70%を占めている。ADA2の生理作用として成長因子様作用があり、また、ADA2を遺伝的に欠損すると全身性の炎症や血管障害に関する自己炎症疾患を発症する。 本研究は、乳汁中のADA2の生理的意義を解明することを目的として、その産生と組織の成熟に及ぼす影響を解析している。2021年度までに、産後7日間の乳汁のADAの活性変動を明らかにした。特に初乳のADA活性は、血中よりも高い傾向があった。3日目以降、ADA活性は減少し、以後7日目までは同程度の活性が維持された。乳汁中のADAの活性比は血漿とは異なる傾向を示した。ADA1と結合性を示すDPP4の活性は乳汁中でも検出されたが、その推移はADAとは異なり、産後7日間維持された。 また、乳汁に存在し、細胞間情報伝達に関わるエクソソームの内包成分中にもADA活性があることを明らかにした。乳汁中ADA2は血中ADA2と同様にヘパリン結合性を示し、ヘパリンセファロースにより乳汁からADA2が分離された。
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