今年度は、以下の研究成果を得ることができた。 (1)炎症抑制性GM3投与に適したマウス系統の同定:血清ガングリオシドの産生・分泌組織である肝臓において、マウスなどの齧歯類ではGM2合成酵素(B4galnt1)が発現している。マイクロアレイデータベースを用いたメタ解析により、種々の近交系マウス系統における、組織ごとの糖転移酵素発現パターンを分析した結果、FVB/N系統およびNOD/shi系統では、肝臓におけるGM2合成酵素B4galnt1の発現量が、そのほかの系統と比べて著しく低いことがわかった。実際に、薄層クロマトグラフィー法やLC-MS/MSによって肝臓および血清のガングリオシド分子種を比較すると、FVB/NおよびNOD/shiではGM2の発現は完全に消失しており、ヒトと同様にGM3が発現していた。ゲノム配列データベースを用いた解析および、実際のDNAシーケンサーによる配列解析により、FVB/NおよびNOD/shiでは他の系統と比べて、B4galnt1上流における10kbpにおよぶ領域欠損と、0.6kbpの配列挿入が確認された。また、配列相同性を調べると、ラットにおいては相同性を示す領域が保存されていたが、ヒトにおいては現在までの解析では存在が確認できていない。よって、この領域が、生物種間における血清・肝臓選択的なガングリオシド発現パターンの差異に大きく関与していることが示唆された。 (2)炎症抑制性GM3投与に適したマウスモデルの作成:FVB/N系統における上記の欠損領域を、C57BL/6系統においてCrispr/Cas9法を用いて二重切断した非遺伝子領域欠損マウスを作出した。今後、肝臓選択的なエンハンサー領域・転写因子を介した血清ガングリオシド発現制御の解析や炎症抑制性GM3の投与による解析に有用と考えられる。
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