研究課題/領域番号 |
19K16361
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
藤江 智也 東邦大学, 薬学部, 講師 (20780886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カドミウム / 内皮細胞 / 重金属 / 細胞毒性 |
研究実績の概要 |
カドミウムは現在も環境を汚染している重金属であり,血管病変発症・進展の危険因子である。血管病変の発症には血管内腔を一層で覆っている内皮細胞の機能障害に起因している。カドミウムは,食品・環境中において亜鉛,鉛,マンガンなどその他の重金属と共存している。カドミウムによる血管病変発症・進展をより現実的に理解するために,重金属相互作用による毒性の修飾とその機構解明は重要課題であるが,その詳細については十分に明らかになっていない。本研究の目的は,血管内皮細胞に対する細胞毒性を指標として,カドミウムと他の重金属との相互作用様式を明らかにするとともに,その相互作用を担う責任分子と機構を解明することである。 カドミウムの内皮細胞毒性の強さは,カドミウムの細胞内蓄積量およびメタロチオネインに代表される生体防御タンパク質の発現・活性が重要に関与するが,カドミウムの内皮細胞毒性に対する亜鉛およびマンガンが抑制作用には,これらに依存しない機構が存在することが示唆されている。本年度は,内皮細胞接着因子インテグリンおよびカドヘリンに着目し,カドミウム,亜鉛およびマンガン曝露による発現変動を解析した。 一方,カドミウムの内皮細胞毒性を鉛が修飾すること,およびその機構としてカドミウムによる小胞体ストレスの防御応答の脆弱化が関与することが示唆された。一方で予備的検討によって鉛がZIP8発現を誘導することを見いだしている。本年度は,鉛によるZIP8発現の誘導とその機構を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,(1)カドミウムに曝露された内皮細胞における細胞接着因子インテグリンおよびカドヘリン発現の解析,および(2)鉛による内皮細胞のZIP8発現誘導とその機構を解析した。 (1)内皮細胞に発現していることが知られるインテグリンのうち,インテグリンα3,α5,αV,β4およびβ5 mRNA発現がカドミウム曝露により低下していた。この低下は,タンパク質レベルでも認められた。しかしながら,カドミウムの内皮細胞毒性を抑制する亜鉛およびマンガン処理では,インテグリン mRNA発現に変化は認められなかった。カドミウム,亜鉛およびマンガン処理によってカドヘリンのmRNAレベルに変化は認められなかった。以上より,カドミウムによって内皮細胞のインテグリンα3,α5,αV,β4およびβ5が低下することが示された。この低下は,亜鉛およびマンガンとの重金属相互作用には寄与しないことが示唆されるものの,カドミウムによる内皮細胞障害の重要な分子基盤のひとつになることが示唆された。 (2)鉛に曝露された内皮細胞において,ZIP8タンパク質およびmRNA発現の増加が認められた。鉛は小胞体ストレスを惹起することが知られているので,小胞体ストレスシグナルを担うIRE1α,PERKおよびATF6のZIP8誘導に対する関与を解析した。IRE1α,PERKあるいはATF6いずれの発現を抑制しても,鉛によるZIP8誘導は抑制されなかった。一方,鉛によってMAPKシグナルを担うERK,p38 MAPKおよびJNKの活性化が認められた。今後,これらMAPKシグナルのZIP8誘導に対する関与を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
鉛曝露による内皮細胞のZIP8誘導は小胞体ストレスシグナルを介在しないことが示唆された。一方で,鉛によってMAPKの活性化が認められた。これまで,カドミウムによるZIP8誘導は,NF-κB活性化を介在することおよびその活性化にはIκBαのリン酸化とJNKシグナルの活性化を介在することを示している。そこで,鉛によるZIP8誘導に対するMAPKおよびNF-κBシグナルの関与を解析する。この機構解析を通して,カドミウムおよび鉛の相互作用の分子機構を明らかにする。 カドミウムは特に食品を汚染している重金属であるが,ヒ素や無機水銀も同様である。さらにこれまで,いずれの重金属も動脈硬化や高血圧症など血管病変の発症・進展の危険因子として認識されているところであるが,内皮細胞におけるこれら重金属の相互作用に関する報告は存在しない。そこで,カドミウムの内皮細胞毒性に対して,ヒ素および無機水銀が修飾し得るか解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって一定期間の研究活動が制限されたことにより,開始および進捗が当初より遅れたため,鉛によるZIP8誘導シグナルが明らかにされなかった。次年度(3年目)の研究に加えて本研究を実施するために,この引継ぎ予算を充てる。
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