筋萎縮性側索硬化症(ALS)において、ミトコンドリアの過剰な分裂は家族性・孤発性ALSの症例に共通して認められる病態であるため、より多くの患者への治療を可能にする普遍的な標的として注目されている。これまでに申請者らは、ミトコンドリアの過剰な分裂を引き起こす心臓の病態(心不全)において、ミトコンドリア分裂を司るDrp1と相互作用するタンパク質Filamin Aを見出したことから、病態特異的なDrp1複合体の形成がミトコンドリアの動態異常に広く共通するメカニズムとなる可能性を示してきた。本研究課題においては、1)ALSの病態依存的なDrp1相互作用タンパク質の(網羅的な)同定、および2)その相互作用を抑制する薬剤の同定・開発を目指した。 まずALSモデルであるSOD1 G93A tgマウスを用い、脊髄においてDrp1- Filamin A相互作用が強まっていることをproximity ligation assay(PLA)によって可視化・定量化した。なおPLAシグナルの増加は下位運動ニューロンにとどまらず、脊髄の広範囲に認められた。また、Drp1- Filamin A相互作用を抑制する化合物シルニジピンを発症後(生後100日~)のSOD1-G93Aマウスに連続投与したところ、生存期間が有意に延長された。発症前にシルニジピンを投与した場合には、筋萎縮や下位運動ニューロンの脱神経が有意に抑制された。さらに、運動ニューロン様の培養細胞株にALS原因遺伝子SOD1 G93A変異を発現誘導しミトコンドリアの輸送の異常を起こした上でシルニジピンを処置すると、ミトコンドリア輸送が顕著に回復することを見出した。
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