研究課題/領域番号 |
19K16368
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研究機関 | 国立水俣病総合研究センター |
研究代表者 |
鵜木 隆光 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 主任研究員 (00742868)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メチル水銀 / 活性イオウ分子 / レドックスホメオスタシス |
研究実績の概要 |
メチル水銀 (MeHg) 曝露による中枢神経系への細胞傷害は部位、細胞種および発達段階で異なるが、その理由を説明できる知見は少ない。MeHg曝露による細胞障害はMeHgの親電子性による生体高分子の修飾および酸化ストレスに起因すると目される。近年、高い求核性・抗酸化性を有する活性イオウ分子 (Reactive sulfur species, RSS) を介したレドックスバランスの維持による全く新しい恒常性維持機構を我々は明らかとしてきた。そこで本研究ではMeHg毒性防御に寄与するRSSの中枢神経系における存在量を時空間的に解析し、その差異がMeHgによる細胞傷害に特異性をもたらす一因子であるかを検討する。したがってメタボローム解析を駆使した本研究により、中枢神経系におけるRSSの時空間的な分布を初めて詳細に明らかとし、MeHg曝露においてなぜ選択的細胞障害が生じるのかというMeHg毒性研究における根本的な謎の解明に資する知見となる。 ラット胎児期脳への低濃度MeHg曝露において、CysSSHやH2SといったRSSの減少が確認された。本曝露条件は細胞死を引き起こさない低用量であることを鑑みると、これらのRSSが高い反応性をもってMeHgを捕獲・不活性化することで細胞のレドックスバランスの維持に寄与していることが示唆される。また、これらのRSSは胎生期から出生後までの発達段階に応じ脳内量が増加したことから、MeHgへの抵抗性獲得に寄与していることが示唆される。成人型水俣病では小脳顆粒細胞層といった特定部位に傷害を示す。本研究では成体ラット脳急速切片を用いた小脳層構造ごとの単離・解析の結果、MeHg曝露下において顆粒細胞層におけるRSS量が分子層に比して僅少であることを確認したことからも、当該分子の存在量がMeHg感受性の差異を生み出す一因子であることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はラット脳における発達時期および部位特異的な活性イオウ分子の分布特異性を明らかとし、MeHg曝露下における局在量の低下も見出したことから、研究年次計画に基づき、順調に研究知見を得られた。
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今後の研究の推進方策 |
研究年次計画に基づき、ラット脳から種々の初代培養神経細胞を単離し、神経細胞種特異的な活性イオウ分子局在量を明らかとすると共に、MeHg曝露抵抗性との関係性を明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表を予定していた第59回米国毒性学会が、新型コロナウイルス感染症の影響により開催中止となり、参加費および旅費を支出しなかったため。次年度の学会発表機会を拡充して使用する。
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