研究課題
脳内のアセチルコリンは忌避学習・嫌悪記憶や認知記憶に重要な役割を果しており、アルツハイマー型認知症の発症に密接に関与することから、治療薬の標的となっている。しかし、神経細胞内におけるアセチルコリンの作用機序は今もよく分かっていない。研究代表者はこれまでに、リン酸化プロテオミクス法によりアセチルコリン下流におけるPKCキナーゼ基質を包括的に探索し、アセチルコリンがPKCを介して学習や記憶形成と関わるPAKキナーゼを活性化することを見出している。本研究では、PAK基質の包括的探索を行なって、アセチルコリンの作用機序を解明すると共に、忌避学習・嫌悪記憶や認知機能におけるアセチルコリン-PAKシグナルの役割を解明することを目的としている。2019年度は、コリンエステラーゼ阻害剤ドネペジルを用いた受動回避試験を行うことにより、アセチルコリンが忌避学習・嫌悪記憶を担う側坐核内のD2R-MSN神経細胞においてPAKを活性化し、忌避学習・嫌悪記憶を亢進することを明らかにした。2020年度には、アセチルコリン-PAK経路とスパインの形成及び成熟との関連性を示唆する結果を得た。2021年度は、ドネペジルを用いてPAKが認知記憶を担う海馬内のCA1領域において活性化することを明らかにした。また、PAK阻害剤を用いた新奇物体認識試験により、認知記憶がPAKに依存することを明らかにした。以上、本研究期間の研究成果により、アセチルコリン-PAK経路がスパインの形態変化を介して忌避学習・嫌悪記憶や認知記憶を制御することが示唆された。また、本研究の成果によって、アセチルコリンの作用機序の解明のみならず、認知症治療薬の作用機序やアルツハイマー型認知症の分子基盤の解明に繋げることができた。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Journal of Neurochemistry
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