研究実績の概要 |
生体時計は、地球の自転に伴う昼夜変動に基づき形成された、生命にとって最も根源的な「時間」の仕組みである. 本研究では『かゆみ』という神経感覚が一日のなかで消長する仕組みを解明する. アトピー性皮膚炎をはじめとした慢性的かゆみは、夜間に増強する. しかし、その日内変動の本態に迫った基礎研究は国際的にみても皆無である. そこで本研究では、かゆみセンサーTRPチャネルや炎症に関する申請者の研究経験を基に(Front. Physiol., 2017; Nat. Commun., 2016; Glia, 2015; Biochem. Biophys. Res. Commun., 2014)、体内時計とTRPチャネル・炎症関連タンパク質関係を調べ、かゆみ情報処理機構の概日的な変化を追究する研究を開始した(Miyake & Doi,Trends in endocrinology and metabolism, 30:569-71, 2019). 具体的には、体内時計リズムの発振を司るPer1/2/3・Cry1/2・Bmal1の欠損マウスを用いて、電気生理学的手法と行動実験を組み合わせた準備ならびにTRPチャネルやその制御分子の発現及び翻訳後修飾の日内変動、ニューロン・グリアの概日性機能変化に着目した研究を開始した. 末梢神経細胞は軸索が長く、従来まで考えられてきたような転写-翻訳フィードバックループによる転写を主としたタンパク質発現制御が難しいことに気付き、リン酸化や糖鎖修飾によるタンパク質の量的制御機構に着目した検討を行った結果、その一端として、体内時計の周期長を調節するGタンパク質共役受容体Gpr176の発現がN型糖鎖修飾によって制御されることを見出すことに成功した(Wang & Nakagawa et al., Scientific Reports, 10:4429, 2020).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従って研究を実施し、かゆみの概日リズムを惹起する分子メカニズムの検討を行うことができた. その中で、申請者は末梢神経の形態的性質、すなわちゲノムのある細胞体とタンパク質が機能する神経終末とは距離として大きくかけ離れているということに着目し、従来提唱されてきたようなゲノムからの転写に依存したようなタンパク質量制御ではなく、リン酸化などの翻訳後修飾の過程に、かゆみの概日性制御の鍵があるのではないかと仮説を立て、新たな検証を行うことができた。その結果、現在まだその多くは検証過程の段階にあるが、その一部としてすでに、体内時計のスピード調節を司るオーファン受容体Gpr176のN型糖鎖修飾による細胞内輸送制御機構を明らかにすることに成功した(Wang & Nakagawa et al., Scientific Reports, 10:4429, 2020). このように、研究は順当に進んでいると考えられる.
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