研究課題/領域番号 |
19K16373
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡元 拓海 広島大学, 医系科学研究科(医), 研究員 (40826351)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ユビキチンリガーゼ / RNF183 / 炎症性腸疾患 / 潰瘍性大腸炎 / クローン病 |
研究実績の概要 |
ユビキチンリガーゼRNF183は、申請者らがバイオインフォマティクス的手法により同定に成功した新規遺伝子を含む37種のユビキチンリガーゼの一つであるが、その機能は解明されていない。近年、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患患者において、大腸でのRNF183の発現が亢進していることが報告され、また、申請者らの予備実験により、RNF183ノックアウトマウスにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与した場合、野生型マウスと比較して顕著に炎症状態が改善することを見いだしている。RNF183と炎症性腸疾患の関連性を明らかとするため、まず、RNF183の基質タンパク質の同定を行った。 ビオチンリガーゼBirAを融合したRNF183を発現させ、RNF183の近傍タンパク質をビオチン化し、ビオチン化タンパク質を回収する近位ビオチン標識法により、RNF183の近傍タンパク質を回収した。ショットガンプロテオーム解析により、RNF183結合タンパク質候補としてNa,K-ATPase α1サブユニットを同定した。しかし、その後の詳細な解析により、RNF183はα1サブユニットではなく、α1サブユニットと複合体を形成しているβ1サブユニットをユビキチン化することを明らかにした。また、RNF183によるβ1サブユニットのユビキチン化によりα1β1複合体は細胞膜からライソゾームへ移行し、分解が促進されることも明らかにした。RNF183の基質タンパク質候補は他にも複数同定しており、今後解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の順序が前後し、RNF183が関与する炎症性腸疾患発症のシグナルパスウェイの同定のために行う予定であったRNFシーケンスを行っていないが、基質タンパク質の同定が予定より進んでおり、全体としては概ね順調である。腎臓に特異的に発現するRNF183の基質タンパク質としてNa,K-ATPase β1サブユニットを同定し、α1β1複合体のライソゾーム分解を促進することを発見した。Na,K-ATPaseは炎症性腸疾患患者の大腸において発現が減少するという報告もあることから、RNF183によるNa,K-ATPaseの分解促進が炎症性腸疾患に関与する可能性が考えられる。また、Na,K-ATPaseは通常細胞膜に局在しているが、RNF183と共発現するとライソゾームへ移行するという劇的な変化をみせた。この劇的な局在変化は、今後予定しているRNF183阻害薬同定のためのスクリーニング系確立に活用できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、RNF183によるNa,K-ATPaseの局在変化を利用した、RNF183阻害薬同定のためのスクリーニング系構築および薬物評価を行う。また、基質タンパク質の同定を先に行ったため実施できていないRNFシーケンスも行い、RNF183が関与する炎症性腸疾患発症のシグナルパスウェイを同定する。さらに、Na,K-ATPase β1サブユニット以外にもRNF183の基質タンパク質候補を同定しており、それらについてもユビキチン化の検証を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
基質タンパク質の同定が予定より順調に進み始めたため、当初予定していたRNF183が関与する炎症性腸疾患発症のシグナルパスウェイの同定のためのRNFシーケンスを行わず、基質タンパク質の同定を優先的に進めた。次年度は、計画が前後して行えていないRNAシーケンスを行うほか、予定通りRNF183阻害薬同定のためのスクリーニング系構築および薬物評価を行う。また、一部は得られた研究成果を学会等で発表するための旅費や論文投稿費として使用する予定である。
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