研究実績の概要 |
これまでに我々は、バイオインフォマティクス的手法により同定に成功した新規遺伝子を含む37種のユビキチンリガーゼの一つであるユビキチンリガーゼRNF183の生理的機能の解明を目指してきた。昨年度までの研究で、ビオチンリガーゼBirAを融合したRNF183を発現させ、RNF183の近傍タンパク質をビオチン化し、ビオチン化タンパク質を回収する近位ビオチン標識法により、RNF183結合タンパク質候補としてNa,K-ATPase α1サブユニットを同定した。しかし、その後の詳細な解析により、RNF183はα1サブユニットではなく、α1サブユニットと複合体を形成しているβ1サブユニットをユビキチン化し、α1β1複合体を細胞膜からライソゾームへ移行させ、分解を促進することを明らかにした。RNF183の基質タンパク質候補は他にも複数同定しており、そのうちの一つであるNKCC1について検討を行った。 NKCC1が実際にRNF183の基質タンパク質であるか検証したところ、NKCC1はRNF183と結合し、RNF183によりユビキチン化されることを明らかにした。また、NKCC1のRNF183によるユビキチン化の役割を検証し、NKCC1はRNF183によりユビキチン化されることで細胞膜からライソゾームへ移行し、分解が促進されることを見出した。また、高浸透圧条件下ではNKCC1の分解がより促進されることも見出した。 本研究でRNF183の基質タンパク質として同定したNa,K-ATPaseやNKCC1は炎症性腸疾患患者の大腸において発現の低下が報告されている。近年、炎症性腸疾患患者において、大腸でのRNF183の発現が亢進していることが報告されていることからも、RNF183と炎症性腸疾患の関連性をより詳細に検証し、炎症性腸疾患の発症機序を解明していきたい。
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