研究課題/領域番号 |
19K16375
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
笠原 由佳 横浜市立大学, 医学部, 助教 (50838208)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドーパ受容体 / ドパミンD2受容体 / ドーパ / ドパミン |
研究実績の概要 |
ドパミン前駆体であるドーパが神経伝達物質であるかどうかは、未だに議論の的となっている。この論争に決着を付けるためには、ドーパの生理学的機能の全容を解明する必要がある。我々は、予備試験によりドーパ受容体GPR143遺伝子欠損マウスにおいてドパミンD2受容体(D2R)作動薬の作用が減弱することを発見し、GPR143がD2Rを介したドパミン神経系のシグナル伝達の制御に関与する可能性を見出した。そこで、「GPR143はD2Rとヘテロオリゴマーを形成し、ドパミン神経伝達を修飾することでその生理学的機能を制御する」という仮説を立て、検証を行っている。 まず、GPR143がD2Rとオリゴマーを形成するか検討するため、HEK239にD2R-YFP及びGPR143-CFPを発現させ、蛍光共鳴エネルギー移動効果を測定する。受容体の相互作用が確認された場合、キメラGPR143を作製し、D2Rとの相互作用の程度を評価することで、結合部位を同定する。この結合部位に作用し、オリゴマー形成を阻害するTATぺプチドを免疫沈降法によりスクリーニングする。次に、GPR143とD2Rの相互作用がシグナル伝達機構に与える影響について解明するため、GPR143遺伝子欠損によって生じるD2Rの下流シグナル伝達分子への影響を評価する。さらに、行動表現型への影響について検討する。我々は既に、GPR143遺伝子欠損によりD2R作動薬による運動量の低下が抑制されることを発見している。今後は、D2R阻害薬の作用についても検討する。GPR143欠損に伴うD2Rシグナル伝達機構及び行動表現型の変化がGPR143-D2R相互作用によるか、作製したTATペプチドにより検討する。最後に、生じたD2Rシグナリング及び行動表現型への影響が、GPR143を再発現させることでレスキューされるか検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は既に、免疫沈降法によりGPR143とD2Rが相互作用することを明らかにしている。さらに、受容体間の空間配置について検証するため、蛍光共鳴エネルギー移動効果の測定に必要となるプローブを設計し、作製している。また、キメラGPR143を作製し、D2Rとの相互作用の程度を評価することで、受容体の結合部位を同定した。この部位に作用するTATぺプチドを作製し、免疫沈降法によりスクリーニングした。この結果、GPR143-D2Rオリゴマーの形成に阻害作用を示すTATぺプチドの作製に成功した。次に、GPR143とD2Rの相互作用がシグナル伝達機構に与える影響について解明するため、D2Rの下流に存在するシグナル伝達分子(GSK3β、Erk)のリン酸化や量的変化をウェスタンブロッティング法により評価した。野生型に比べ、GPR143遺伝子欠損マウスで、線条体におけるD2R作動薬(クインピロール)によるGSK3βのリン酸化が減少した。さらに、行動表現型への影響について、D2R阻害薬(ハロペリドール)を用いて検討した。ハロペリドールにより誘導されるカタレプシーの程度は、GPR143遺伝子欠損マウスで減弱する傾向があった。これに加え、作製したTATペプチドを脳室内に投与することで、GPR143遺伝子欠損によって生じたクインピロールによる運動量減少への影響が抑制される可能性を明らかにした。また、線条体においてGPR143を再発現させる実験系を立ち上げた。
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今後の研究の推進方策 |
作製したプローブを用いて、蛍光共鳴エネルギー移動効果の測定を行う。GPR143の欠損によりGSK3βのリン酸化が抑制されることから、ドーパ受容体GPR143がD2Rの細胞膜上への移行やリガンドへの親和性を変化させる可能性が考えられる。これらの可能性を検証するため、まず、D2Rのリガンドへの親和性について検討する。HEK293にD2R単独もしくはD2とGPR143を強制発現させ、ELISAによりD2Rのドパミンへの親和性の変化について評価する。次に、GPR143がD2Rの細胞膜上への移行に与える影響について検討する。免疫染色を行い、GPR143の有無、GPR143とD2Rの薬理学的活性操作によりシナプス上のD2R密度が変化するか観察する。 現在検討している行動表現型については、今後例数を追加し、野生型とGPR143遺伝子欠損マウスの間で比較し、評価する。観察される行動表現型への影響がドーパ依存的であるか、当研究室で所有しているGPR143flox/yマウスを用いて確認する。アデノ随伴ウイルスを線条体に投与し、ドーパ合成を担うチロシン水酸化酵素陽性細胞選択的にCre recombinaseを発現させ、Cre / loxPシステムによりGPR143を欠損させる。このマウスとGPR143-KOマウスと比較し、クインピロール投与時及びハロペリドール投与時に生じる行動表現型の変化が同様であるか検討する。次に、GPR143欠損により生じたD2Rシグナリングへの影響及び行動表現型への影響が、GPR143を再発現させることで抑制されるか、クインピロール及びハロペリドールを用いて評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に比べ、次年度により多くの抗体や試薬等の購入が必要となる。また、マウスを用いた外科手術に使用する実験機器等を購入する予定である。
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