我々は、これまでに、ドーパ受容体GPR143遺伝子欠損によりD2R作動薬(クインピロール)による運動量の低下が抑制されること、免疫沈降法によりGPR143とD2Rが相互作用することを明らかにしている。「GPR143はD2Rとヘテロオリゴマーを形成し、ドパミン神経伝達を修飾することでその生理学的機能を制御する」という仮説についてより詳細に検証するため、キメラGPR143を作製し、D2Rとの相互作用部位を同定した。この部位に作用し、オリゴマー形成を阻害するTATぺプチドを脳室内に投与することで、GPR143遺伝子欠損群で認められたクインピロールによる運動量減少への影響が抑制された。さらに、GPR143遺伝子欠損による行動表現型への影響が、GPR143の再発現により抑制されるか検討した。このため、まず、アデノ随伴ウイルス(AAV-DJ-GPR143-P2A-EGFP)を設計、作製した。HEK293細胞に作製したウイルスを感染させ、免疫染色法によりGPR143の発現を確認した。次に、GPR143遺伝子欠損マウスにAAV-DJ-GPR143-P2A-EGFPを投与し、同様にGPR143が発現することを確認した。GPR143遺伝子欠損マウスのうち、腹側線条体にGPR143を再発現させた群では、GFPのみを発現させた群に比べ、クインピロール投与時に生じる運動量の低下の抑制が改善されることを明らかにした。 以上の結果から、ドーパ受容体GPR143がD2Rと相互作用し、D2Rシグナリングの増強によって誘起される行動表現型を制御する可能性が示された。これらの知見は、これまで不明であったGPR143シグナリングによる神経伝達制御機構の解明に迫るものであり、生物学上非常に有用であると考えられる。
|