本研究では、精神神経症状を呈する希少難治性疾患の病態形成機序を究明するため、疾患特異的iPS細胞を用いて分子生物学的・生化学的解析を行ってきた。2020年度においては、神経変性を呈するNiemann-Pick病C型(NPC)患者に由来するiPS細胞を神経細胞に分化誘導し、長期培養に伴う細胞形態の変化やシグナル伝達の差異を検証した。各種iPS細胞に由来する神経細胞は、免疫細胞染色法、western blot法およびreal-time PCR法により評価を行った。神経幹細胞からの分化後28日目の神経細胞は、そのほとんどがTuj1陽性細胞であり、一定量のMAP2の共発現も認められた。また、健常者由来神経細胞では高度な神経ネットワークの形成も認められた。一方、NPC患者由来神経細胞では培養皿に占める神経突起の密度が有意に低下することが示された。また、NPC患者由来神経細胞では、LAMP1陽性ライソゾームおよび脂肪滴の高度な蓄積が認められ、同疾患の神経病理を再現できたと推察された。さらに、透過型電子顕微鏡解析においても高度なライソゾームの蓄積が確認された。一方、western blot法およびreal-time PCR法を用いて小胞体ストレス応答やオートファジー経路の解析を実施したが、有意な変化は認められなかった。
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