研究実績の概要 |
糖尿病や加齢に伴い,生体内に蓄積する終末糖化産物 (Advanced Glycation End Products, 以下AGE) は,糖尿病合併症の発症,増悪の原因と考えられている。AGEは細胞表面受容体(Receptor for AGE, 以下RAGE) を介して,病的シグナルを伝達し,酸化ストレスや炎症などを亢進する。我々はこれまでに,動物モデルにおいて,AGEに結合するDNAアプタマーによるAGEの阻害が糖尿病合併症を改善しうることを示してきた。また,RAGEはAGE以外にいくつかの炎症性メディエーターと結合し,臓器障害を惹起させることから,RAGEを阻害できればAGEを阻害した以上に糖尿病合併症を改善できることが予想される。 本研究は,RAGEに特異的に結合することで,RAGEの情報伝達を阻害するRAGEアプタマーあるいは対照としてコントロールアプタマーを8週齢の2型糖尿病マウス (KK-Ay/Ta) に4週間または8週間持続投与し,インスリン抵抗性,脂肪組織のリモデリング,腎障害の進展などが阻止できるか検討するため,尿,血液,腎臓,脂肪組織の解析を行なった。 その結果,RAGEアプタマー投与により,糖尿病の進行に伴い増加するHOMA-IR(インスリン抵抗性の指標)および尿中NAG活性(腎障害のマーカー),腎臓におけるAGEの蓄積とRAGEの発現,活性酸素種を産生するNADPHオキシダーゼ活性,糸球体および間質の拡大がいずれも抑制した。さらに糖尿病に伴う脂肪組織のアディポネクチン発現抑制がRAGEアプタマーにより改善した。 今回得られた結果より,RAGEアプタマーはAGE-RAGE-酸化ストレス系を抑制し,インスリン抵抗性を改善することで,2型糖尿病マウスの尿細管損傷を抑制できることが示唆された。RAGEアプタマーは新規の2型糖尿病改善薬となりうるかもしれない。
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