研究実績の概要 |
微生物は薬の基となる化合物の重要な探索源として知られているが、近年、これまで一般に用いられてきた培養方法では、実際に存在している微生物の数%程度しか培養できず、残りの90%以上は利用できていなかった事実が明らかとなってきた。本研究は培養が難しい微生物を、特殊な培養器具を用いることで培養可能にし、新たな薬の候補化合物の探索源として利用することを目的としている。 これまでに研究代表者はgichipと名付けた培養器具を作成し、それを用いて新規性が高いと予想される微生物を多数取得してきた。本年度は新規性の高い微生物が産生する化合物の構造新規性を確認することを目的として研究を行った。 研究室内で分離培養した真菌のうち、28SrDNAおよびITS-5.8SrDNAの塩基配列の相同性が日本データバンクに登録された既知微生物のものとそれぞれ最大で89.4%、85.1%と低い値を示し、新規性が高いと予想された株に着目し、産生する化合物の探索を開始した。 本種を大量培養し、有機溶媒を用いた培養物の抽出、抽出物からの化合物精製を行った結果、1種の新規化合物(2-(3-hydroxybutyl)-3-methylhexahydropyrrolo[1,2-a]pyrazine-1,4-dione)と5種の類似の既知化合物(cyclo-Pro-Tyr, Cyclo-Pro-Val, Cyclo-ProIle, Cyclo-Pro-Phe,Cyclo-Pro-Leu) を単離・構造解析した。単離した化合物の生物活性を評価したところ、新規化合物がヒト肺胞基底上皮腺癌細胞であるA549細胞に対してIC50値209.2uMで増殖阻害活性を示した。一方、化合物の探索研究と並行して、本菌株のゲノムシークエンスを委託していたが、gDNAの抽出作業が困難であったことから本年度中にその結果は得られなかった。
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