本研究は薬物中枢移行率の変動を考慮した適切な薬物療法の実現に向けて、血液脳関門 (BBB)の透過性の予測を可能とする血液マーカーを探索することを目的とした。BBBの透過性を反映するが侵襲性の高い髄液採取を要する髄液蛋白/血清アルブミン比 (CSF-P/SA比)と外傷性脳損傷時に血中に漏出することが知られる血液マーカー候補との相関を21名の細菌性髄膜炎患者23検体において調べた。Ubiquitin Carboxy-Terminal Hydrolase L1 (UCHL1)はBBBの透過性が亢進している症例を含む全ての症例において検出限界 (0.78 ng/mL)未満であった。Glial fibrillary acidic protein (GFAP)は6検体 (26.1%)において定量下限 (0.156 ng/mL)を超える血中濃度であったが、CSF-P/SA比との明らかな関連は認められなかった。したがって、BBBの透過性を予測する日常臨床で活用可能な血液マーカーを本研究において見出すことはできなかった。 一方で、細菌性髄膜炎においてバンコマイシン (VCM)の髄液移行率はCSF-P/SA比と有意に相関することが知られる。CSF-P/SA比、VCM血中トラフ濃度、起炎菌の最小発育阻止濃度 (MIC)あるいはこれらを組み合わせたパラメータとVCMの細菌性髄膜炎に対する微生物学的有効性との関連を調べた。その結果、CSF-P/SA比×VCMの血中トラフ濃度/MICが有効群(7例)において無効群 (5例)と比較して有意に高かった。今回の結果は、BBBの透過性亢進が薬物の中枢神経における薬効発現あるいは副作用発現に関与し得ることを示しており、BBBの透過性を予測する血液マーカーやBBB透過性亢進時の薬物中枢移行率の変動についてさらなる検討が必要と考えられた。
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