研究課題/領域番号 |
19K16408
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小森 久和 金沢大学, 薬学系, 助教 (00634180)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ABCG2 / SNP / 翻訳後修飾 / ユビキチン |
研究実績の概要 |
ABCG2 Q141K変異体 (c.421C>A) が変異により獲得した141番目のlysine (Lys) 残基は翻訳後修飾を受け得るアミノ酸残基である。また、過去の報告でQ141K変異体は低発現及び基質輸送低下を示すが、mRNA発現は野生型 (WT) と同程度であることが示されている。したがって、Q141K変異体の表現系における翻訳後修飾の影響を検討した。 本検討ではEGFP融合ABCG2-WT及び-Q141K変異体に加え、Lysと同じ塩基性アミノ酸であるarginine (Arg) に置換したQ141R変異体の発現系を構築した。Arg残基は翻訳後修飾を受けられないことから、Q141RはQ141Kの非修飾モデルとして用いた。 従来の報告通りQ141Kの細胞全体及び形質膜発現量はWTと比較して減少したが、Q141Rの発現量はQ141Kより高かったが、WTと同程度にまで回復しなかった。したがって、Q141KのLys141での翻訳後修飾が形質膜発現に寄与する可能性は低いことが示唆された。また、局在部位を観察したところ、Q141Kは細胞質全体で低く蛍光が見られた一方で、Q141Rは形質膜で発現が観察され、さらに興味深いことに細胞質で顆粒状に蓄積していた。これらの結果より、Lys141での翻訳後修飾は細胞内オルガネラからの脱出に寄与していることが示唆された。さらに、ABCG2タンパク質の分解経路を検討したところ、Q141Kはリソソームでの分解が亢進していることが低発現要因であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、Q141Kの低発現に翻訳後修飾が関与する可能性が示されている。本年度はEGFP融合ABCG2の発現系を構築し、発現量および局在を評価することで、Q141K変異体の表現系における翻訳後修飾の影響を検討した。細胞膜および細胞全体での発現をflow cytometryにより簡便に評価できる方法を構築した。 本年度での検討により、Lys141での翻訳後修飾は形質膜での局在低下ではなく、細胞内オルガネラからの脱出に寄与していることを示す結果が得られた。この結果は想定していた仮説とは異なるものであるが、Q141Kの発現低下がLys141での翻訳後修飾だけでなく、他の要因と複合的に引き起こされている可能性を示す興味深い結果である。また、Q141KだけでなくQ141Rでもlysosomeでのタンパク質分解が亢進していた。このことから、WTの有するGln141がタンパク質の安定性に寄与していると推察された。
|
今後の研究の推進方策 |
Q141KのLys141での翻訳後修飾の種類、およびその修飾が寄与する現象をより詳細に明らかにする。 具体的には以下の検討を行う予定である。 1. ユビキチン化やアセチル化などタンパク質の安定性や細胞内トラフィッキングに寄与する翻訳後修飾の阻害剤を用いることで、発現や局在に及ぼす影響を評価する。 2. オルガネラマーカーとの共局在を観察することで、Q141Kの翻訳語修飾がどのオルガネラからの脱出に寄与しているか明らかにする予定である。 3. 質量分析器を用いることで、Lys141での翻訳後修飾の有無およびその種類を明らかにする。
|