研究課題/領域番号 |
19K16412
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
日下 祐江 大阪大学, 工学研究科, 技術職員 (30781314)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法(BNCT) / ホウ素薬剤 / 血液脳関門 / 脳脊髄液内投与 / 脳腫瘍 / Drug Delivery System |
研究実績の概要 |
現在、放射線被ばくが少ない放射線治療法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT))が注目されている。この治療法が成功するには、ホウ素(10B)が腫瘍に選択的にかつ高濃度に集積することが重要であり、この解決に向けて多くの研究がなされている。しかし高濃度で投与できるホウ素薬剤の開発は非常に難しく、現在使用されている薬剤は2種類のみである。これを解決するため、肝臓腫瘍などでは、腫瘍近くの動脈へ薬剤を投与し、ホウ素の腫瘍到達濃度を高めるようなDrug Delivery System (DDS)が研究されている。しかし脳腫瘍の場合、血液脳関門の存在により、薬剤移行や薬剤排泄の経路が複雑になるため、その手法は未だ確立されていない。そこで本研究ではホウ素薬剤の脳脊髄液内投与法を提案し、その有用性を確かめることを目的としている。 今年度は、ホウ素薬剤およびその濃度補正を目的とした放射性同位元素(炭素14)をラットの側脳室に投与し、その流入濃度と流出濃度の比を経時的に測定することで脳脊髄液中のホウ素排出率の算出を行うことを計画していた。 本研究は令和元年度が初年度のため、まずは動物実験ができるよう大阪大学に申請を行い、大阪大学の動物実験規定に基づいて実験環境を整えることを目指した。しかし、放射線使用施設整備の申請に時間を要し、その完成が今年度に間に合わなかったため、放射性同位元素を使用した実験ができなかった。そこで今年度は、ラットに対して血管内投与および脳脊髄液内投与の2種類の投与法を実施し、薬剤の投与量や投与時間の検討を行った。また同時に、大阪大学理学部の協力を得て、採取検体中のホウ素濃度の測定手法の開発も進めた。計画全体としては、やや遅れ気味である。次年度は、放射性同位元素を使用した実験を実施し、血液脳関門でのホウ素の透過率を算出する予定である。併せて検体中のホウ素濃度の測定法を確立していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、ホウ素薬剤およびその濃度補正を目的とした放射性同位元素(炭素14)をラットの側脳室に投与し、その流入濃度と流出濃度の比を経時的に測定することで脳脊髄液中のホウ素排出率の算出を行うことを計画していた。また、本研究は令和元年度が初年度のため、まずは動物実験ができるよう大阪大学に申請を行い、大阪大学の動物実験規定に基づいて実験環境を整えることを目指した。 まず、ラットに対する脳脊髄液内投与法は特殊な手術を要するため、専門の獣医師に来ていただき、技術指導を受けた。なお、ラットに対する血管内投与法および脳脊髄液内投与法は確立済である。また脳脊髄液の採取は、後頭下穿刺法を実施し、採取した脳脊髄液中のホウ素濃度は、液体クロマトグラフィーで測定できるよう準備をすすめている。 脳組織中のホウ素濃度の測定に関しては、大阪大学理学部の協力を得て、測定方法を検討中である。その一つの方法として、質量分析を用いたイメージング技術の開発を目指している。現在は、質量分析によるホウ素溶液の検出限界や最適なマトリクスの選定を行っている段階であるが、今後、脳組織中のホウ素の検出を画像化することを目指している。しかし、脳組織は脂肪が多く含まれており、質量分析でごく微量のホウ素を検出するには、脂肪による影響を考慮する必要があるなど、まだまだ課題が多い。 現在進行が遅れているのは、放射性同位元素を使用した実験である。当初は側脳室に投与するホウ素薬剤と一緒に放射性同位元素(14C-sucrose)を使用する予定であったが、放射線使用施設で動物実験ができるよう実験室を改装した後、変更申請書を提出したため、申請が通るのが2020年5月以降と予想以上に時間がかかり、放射性同位元素を使用する実験には至らなかった。施設の環境が整い次第、放射性同位元素を使用した実験を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
現在、実験環境は整っており、ラットに対するホウ素薬剤の血管内投与法および脳脊髄液内投与法の投与体系は昨年度確立済みである。今年度は、側脳室および血管からホウ素を投与した後、実際に後頭下から採取した脳脊髄液中のホウ素濃度を測定する予定である。また、放射線使用施設での準備が整い次第、放射性同位元素を用いた実験を行う。 ホウ素濃度の測定に関しては、現在のところ液体クロマトグラフィーと質量分析法を考えている。組織中のホウ素の検出は困難で、測定法の確立が課題である。 まず、液体クロマトグラフィーについては、ラットという小型の動物から多くの検体を採取することが難しいという問題がある。たとえば、脳脊髄液中のホウ素濃度は、液体クロマトグラフィーで測定する予定だが、採取できる脳脊髄液の量は1回あたり100μlとごくわずかなため、希釈して測定するなどの対応をしていく。しかし測定法によっては検体中のホウ素濃度が希釈によって検出限界を下回る可能性もある。つまり、対応策として、ホウ素を大量投与も考慮する必要もあり、ホウ素を大量に側脳室や血管に投与することによる動物への影響も今後考えていかなければならない。 次に質量分析法であるが、脳組織中のホウ素濃度の相対分布測定については、理学部の協力により、質量分析によるホウ素の脳イメージングを進めているが、ホウ素をイオン化することが容易でなく、効率よくイオン化するマトリクスを現在検討中である。さらに脳組織は脂肪が多く含まれているため、質量分析法でごく微量のホウ素濃度を測定するのは容易ではない。脂肪の多い中でイオン化したホウ素のみを検出する工夫が必要である。 一方、質量分析法ではホウ素濃度の定量的な評価が難しいと言われている。したがって次年度は、ホウ素濃度の絶対量を算出するため、質量分析法以外の方法でのホウ素濃度を測定する方法を新たに考案する必要があると考えている。
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