最終年度では、MALDI-SpiralTOF/TOF 質量分析計を利用して、脳腫瘍モデルラット(悪性黒色腫)にBoronophenylalanine(BPA)の脳脊髄液投与法を実施し、BPAの脳内分布を評価することを目的とした。BPAを投与した脳腫瘍モデルラットの腫瘍部を含む大脳半分のホウ素分布(60μm 空間分解能)をイメージングする技術の開発に成功した(特許出願中)。研究全体としては、2020年に頭頚部がん患者を対象に日本で承認された、ホウ素中性子捕捉療法が、脳腫瘍で適用となることを目指し、ホウ素薬剤を血管投与ではなく、脳脊髄液から投与することで、脳腫瘍でのホウ素の高濃度維持が可能となり、治療効果を高められるのではないかと提案し、その検証実験を行ってきた。まず、正常ラットの側脳室に BPAを投与し、脳脊髄液および脳細胞中のホウ素濃度の経時変化を調べた。これにより脳脊髄液投与法の投与量、投与時間の確立を行った。さらに検証を進めるため、正常ラットでBPAの脳脊髄液⇔脳細胞間の分布および排泄に関する動態を調べた。脳脊髄液投与法の場合、脳細胞のホウ素濃度のピーク時間は、側脳室への投与終了後すぐではなく、さらに60分後であることがわかった。続いて、脳腫瘍モデルラットへのBPA投与によるホウ素濃度のTumor/Normal(T/N)比の比較では、脳脊髄液投与法ではBPAの投与量が少ないにも関わらず、血管投与によるT/N比とほぼ同じ、場合によってはそれよりも高かった。最後に、脳脊髄液投与法による、BPAの脳内分布を測定するため、細胞レベルでのイメージングを可能とするMALDI-SpiralTOF/TOF 質量分析計を用いて、脳内のBPA分布を測定した。これによりBPAは、脳脊髄液投与法によっても、脳腫瘍細胞選択性を有することがわかった。今後、実際の中性子照射場で、実証実験を行う。
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