本研究は、ピリドキシン(ビタミンB6)トランスポーターとして見出されたPDXT(pyridoxine transporter)に焦点を当て、ピリドキシンの腸管吸収における役割ならびに大腸癌との関連性を探るものである。前年度までの成果として、PDXT安定発現系MDCKII細胞での検討により、PDXTのピリドキシン輸送機能特性が明らかとなった。さらに、Caco-2細胞(ヒト小腸上皮細胞モデル)においても、同等の輸送特性が確認され、PDXT特異的RNAiによる発現抑制によりピリドキシン取込は有意に低下した。これらのことから、PDXTはピリドキシンの腸管吸収に関与している可能性が示唆された。その一方で、ラット小腸組織を用いた検討では、PDXT関与による輸送の特徴を確認するには至らず、ヒトとラットでの種差が示唆された。これらを受け、本年度はHEK293細胞一過性発現系を用いて、ラットPDXTのピリドキシン輸送機能解析を行った。その結果、ラットPDXTのピリドキシン輸送機能は認められなかった。したがって、ラット小腸ではPDXTのピリドキシン吸収への関与はなく、ヒトとラットにおいて動物種差があるものと考えられる。 続いて、ピリドキシン摂取により、大腸癌の誘発及び細胞増殖が抑制されるとの報告があることから、PDXT機能と大腸癌との関連性について検討した。PDXTの機能的発現が認められたCaco-2細胞を用いて、細胞増殖に及ぼすピリドキシンの影響を評価した。しかし、Caco-2細胞の増殖に対するピリドキシンの影響は認められなかった。今後、PDXTと大腸癌との関連性については、Caco-2細胞のモデルとしての妥当性を含めて、さらなる検討を要すると考えられる。
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