研究課題/領域番号 |
19K16422
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研究機関 | 昭和薬科大学 |
研究代表者 |
神矢 佑輔 昭和薬科大学, 薬学部, 特任助教 (20802945)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 消化管吸収性 / 薬物動態予測 / 化学物質 / 肝毒性評価 |
研究実績の概要 |
工業用物質や医薬品を含む多様な物質について、論文あるいは動物実験により得られた血中濃度推移から、肝臓に着目した簡易型生理学的薬物動態モデルを構築し、幅広い物質について実測値を再現可能な生理学的動態パラメータ(吸収速度定数、分布容積、肝固有クリアランス値)を決定した。吸収速度定数の精緻化のために、並行してヒト結腸がん由来の培養細胞である Caco-2細胞を用いて、様々な工業用物質・医薬品についてCaco-2細胞単層膜透過係数、すなわちin vitro消化管吸収性の網羅的評価を実施した。網羅的評価は現在も継続中であるが、in vitro 吸収性についてその変動要因を解析するために、Caco-2細胞透過係数を決定した56種の物質について、物性値計算ソフトウェアにより算出したインシリコ物性値を用いて、Caco-2細胞透過係数を説明可能な回帰式の構築を試みた。その結果、分子量、消化管内および血液中のpH条件を考慮した2種の分配係数を組み合わせた簡便な重回帰式を得た。本回帰式より算出した透過係数の計算値は、実験値を良好に再現した。さらに、本回帰式の構築に用いていない34種の物質について、同様に膜透過係数を計算(予測)し、その後実験によりCaco-2細胞透過係数を決定したところ、予測値と実験値の間には、回帰対象56物質のそれと同程度の、有意な相関性が確認された。これらのことから、in vitro 吸収性の変動要因として物質の物性が関与し、インシリコで計算した簡便な物性値を用いることで、その変動を一定の精度で説明可能であることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要で述べたように、広範な物質を用いて in vitro吸収性の予測可能性、および吸収性が肝臓への影響の一因となりうる知見を示した。一方、先行研究で、一般化学物質の亜急性毒性試験による肝無影響量報告値と in vitro 吸収性との間に有意な逆相関関係が成立することを明らかにしており、体内動態が化学物質の毒性を規定し得る重要な知見を得ている。今年度はそれらの知見をまとめ、論文化できたことから、一定の成果を得られたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、2年目も継続して種々物質の生理学的薬物動態モデル構築と、Caco-2細胞透過性試験を実施し、吸収性情報のさらなる拡充を図る予定である。その後、in vitroで評価した吸収性ならびにその変動要因を、共同研究先の人工知能開発者の協力のもと、生理学的薬物動態モデルに還元することを試みる予定である。今年度明らかにした回帰式の物性値についてもさらに検討を重ね、より簡便かつ高精度な透過係数予測式を探求することで、吸収性の変動要因の解析に努める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:1年目に予定していたin vitro 細胞透過性試験を一部次年度に実施することとしたほか、2年目に予定している国際学会への出張必要経費が当初計画よりも高額になりそうであったため、それらの不足分を2019年度分より計上した。さらに、2019年度末に予定されていた日本薬学会第140年会の開催が感染症の影響で急遽中止となり、その旅費分が余剰として生じた。 使用計画:2019年度繰越金と2020年度請求分は、国際学会旅費、試薬・培養製品の購入ならびに論文投稿に使用する予定である。
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