実験動物を用いる工業用化学物質の亜急性毒性試験では物質の体内動態は考慮されておらず、代替可能なin vitro/in silico毒性評価手法は確立されていない。腸由来細胞株である Caco-2細胞を用いて、化学物質のin vitro消化管膜透過性と肝毒性発現リスクの関連性を調査した。有害性評価支援システム統合プラットフォーム(HESS)に収載されている化学物質29種のラット肝毒性指標のひとつである肝無作用量は、Caco-2細胞単層膜を介した膜透過係数値と有意な関連を示した。すなわち、消化管膜透過性が肝臓毒性発現を規定する因子のひとつであることが示唆された。加えて、化学物質90種を用いた検討により、分子量および2種類の分配係数を組み合わせた重回帰分析を活用することで、膜透過係数の予測が可能であった。化学物質の体内動態と臓器毒性発現の関連性を評価するため、消化管および肝臓に着目した簡易生理学的薬物動態(PBPK)モデルを構築した。HESS収載8物質の肝毒性指標である最小作用量報告値と、PBPKモデルにより記述された推定肝臓中濃度は有意な相関関係を示し、化学物質の肝毒性発現が体内動態と密接な関係にあることが示唆された。未知物質の体内動態を推定するために、多様な 246 物質を用いた機械学習手法によりPBPKモデルにおいて体内動態を規定する薬物動態パラメータの推定を試みた。市販のソフトウェアより取得可能なin silico分子記述子14~26種を用いて計算した吸収速度定数、分布容積および肝代謝消失の3種薬物動態パラメータ、およびそれらにより記述される体内動態は、実測値を精度よく再現した。以上、腸由来培養細胞株を用いたin vitro消化管膜透過性評価およびPBPKモデルを活用するin silico臓器中濃度推定手法が、動物を用いる毒性試験の代替手法となりうることが期待される。
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