研究課題/領域番号 |
19K16423
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
北岡 諭 星薬科大学, 薬学部, 助教 (50824778)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リトドリン / 胎児 |
研究実績の概要 |
我が国では、切迫流・早産の治療薬としてリトドリンが汎用されているが、妊婦がリトドリンを長期にわたって服用した場合、新生児が高頻度に低血糖(新生児低血糖症)を発症することが臨床現場で大きな問題となっている。これまで、リトドリンによる新生児低血糖症は、妊娠中に高血糖状態にさらされたことによる胎児中のインスリン分泌の亢進によって生じるものと考えられてきた。しかしながら、筆者は、リトドリンが低分子であるため母体から胎児に薬物が移行し、影響を及ぼしているのではないかと考えた。 そこで本研究では、リトドリンの胎児内動態を明らかにし、リトドリンの胎児に対する直接作用の有無を明らかにすることを目的としている。また、リトドリンとインスリン製剤を併用し、母体の血糖を正常範囲にコントロールすることで新生児低血糖症の発症を予防できるかについても検討し、最終的に、上述の解析結果を基に新生児の低血糖を回避するためのリトドリンの新たな投与設計の開発を目指している。 以上の背景の基、リトドリンの母体から胎児への移行性を検討した。その結果、リトドリンの母体への投与直後より、胎児からリトドリンが検出された。すなわち、リトドリンは、母体血中から胎盤を介し、胎児中へと速やかに移行することが明らかとなった。以上の結果は、リトドリンの分子量が287と胎盤を透過しやすいサイズであったため、受動拡散によって容易に胎盤を透過できたことに起因しているものと考えられる。今後は、母体から胎児に移行したリトドリンの胎児内分布や排泄過程について解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床で用いられているリトドリンは、+体と-体の等量混合物である。一方で、その平滑筋の弛緩作用には、数十倍の効力の差があることが報告されており、理想的には、薬理効果の強い-体のみを使用することが、母体への投与量を少量に設定することが可能となり、胎児への毒性の観点からも合理的であると考えられる。そこで、筆者は、+体と-体の等量混合物として母体に投与したリトドリンを+体と-体を別々に定量することで、それらの母体から胎児への移行率の差の有無についても解析することとした。しかしながら、リトドリンをキラルカラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分離する分析系が未だ確立されておらず、測定が進んでいない状況にある。今後、この課題解決を最優先に、実験を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、第一にリトドリンを+体と-体の分離して、別々に定量分析する分析系の構築を最優先とし、実験を進めていく予定である。その後、構築した分析系を用いてリトドリンの母体から胎児への移行性、胎児内分布及び胎児からの排泄率を+体と-体を区別して解析していく予定である。さらに、当初の計画にあるリトドリンとインスリン製剤との併用効果についても、胎児の生育への影響や新生児の低血糖症の発症の有無を指標とし、その毒性発現のリスクを回避する投与計画を立案できるよう、解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
リトドリンを+体と-体の分離して定量分析する必要が生じたが、その分析系の構築が進まなかったこと、並びに新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、研究を行う時間が大幅に減少してしまったことが、次年度への繰越し金の生じた主たる要因である。
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