近年、我が国を含む先進諸国では晩婚化に伴い、高齢出産の割合が増加している。一般に、高齢出産では、切迫流・早産のリスクが高まることから、その治療法にも注目が集まっている。我が国における切迫流・早産治療の第一選択薬はリトドリンであり、軽度の場合は内服、緊急性を伴う場合は持続点滴で使用されている。 リトドリンは構造中に2つの不斉中心を有していることから4つの立体異性体が存在するが、臨床ではその中の1組のエナンチオマー(+ 体、- 体)の等量混合物が用いられている。一方で、過去の報告では + 体と- 体の薬理効果におよそ40倍の差のあることが明らかにされており、+ 体、- 体の等量混合物として使用する是非が問われる状況にある。以上の背景の下、本研究では、キラルカラムを用いたLCでリトドリンの + 体、- 体を分離し、MS/MSで検出する定量分析系を構築し、その母体内における薬物動態及び母体から胎児への移行性を妊娠中期のマウスを用いて解析した。その結果、リトドリンの + 体と - 体間で分布容積に大きな差のあることが明らかとなった。また、それらのAUCにも同様の差があり、母体におけるリトドリンの薬物動態は + 体と - 体間で大きく異なることが明らかとなった。加えて、リトドリンの母体から胎児への移行性を解析した結果、母体内の薬物動態と同様に + 体と - 体間で大きく異なることが明らかとなった。現在、LC-MS/MSで検出されたリトドリン由来の2つのピークが + 体、 - 体のいずれのものであるか、同定を進めている段階である。その結果と以上の薬物動態の結果を組み合わせることで、リトドリンの光学分割した製剤の有用性を議論するのに貴重な情報になると期待される。
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