研究課題/領域番号 |
19K16424
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
永井 純子 明治薬科大学, 薬学部, 助教 (50828142)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抗コリン作用 / 副作用 / データベース / 化学構造 / 人工知能 |
研究実績の概要 |
本研究は、①医薬品の化学構造を用いた抗コリン作用評価尺度予測モデルの作成、②①を用いた低分子医薬品の抗コリン作用の評価、③レセプト情報・特定検診等情報データベース(NDB)による検証の3段階から成る。本年度は①の抗コリン作用評価尺度予測モデルの作成を実施するための環境整備とモデルに組み込む情報の収集を実施した。 1. 抗コリン作用評価尺度データテーブルの構築: 抗コリン作用評価尺度予測モデルの目的変数となる、医薬品の抗コリン作用評価尺度と医薬品名から構成されるテーブルの構築を完了させた。まず文献検索により、抗コリン作用評価尺度に関するシステマティックレビューや、それらに掲載されている抗コリン作用評価尺度を報告した論文の収集と内容の評価を実施した。以上より、医薬品とその抗コリン作用評価尺度を抽出し、医薬品の名称や重複の確認等の処理を実施した後、評価が異なる医薬品を区別し、統合したデータテーブルを完成させた。 2. 医薬品の化学構造情報の取得:抗コリン作用評価尺度予測モデルの説明変数となる、医薬品の物理化学的特徴量である記述子を算出した。はじめに、所属研究室所有の医薬品―化学構造辞書の確認・修正作業および、統合計算化学システム(MOE)を搭載したコンピューターの環境整備を行った後、辞書データよりMOEを用いて、医薬品の記述子を算出した。 3. NDBによる検証の事前準備:抗コリン作用評価尺度予測モデルの完成直後にNDBによる検証を実施するのではなく、予め臨床における抗コリン作用性副作用発現の現状を把握しておくこととし、その過程で予測モデルを構築する上での有用な情報の探索を試みた。米国FDAによる大規模副作用自発報告データベースであるFAERSを解析することで、抗コリン性副作用の発現と患者因子との相関や、医薬品の抗コリン性副作用発現のオッズ比と評価尺度との相関の情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1. モデル作成に必要な情報の取得:医薬品の物理化学的特徴量は化学構造データより計算されるが、その基になる所属研究室所有の「医薬品-化学構造辞書」に誤りや修正点が見付かったため、確認・修正作業が発生した。また、医薬品の物理化学的特徴量を計算する統合計算化学システム(MOE)を搭載したサーバーコンピューターが、予期せず故障し使用不能になったため、新たに計算環境の整備作業が発生した。修正作業を完了した辞書とMOEにより、医薬品の物理化学的特徴量の算出ができた。論文検索による抗コリン作用評価尺度の情報収集は予定通り問題なく実施でき、これらの論文から医薬品の抗コリン性副作用評価尺度のデータテーブルの構築が完了した。以上より得られた情報を用いて、抗コリン作用評価尺度予測モデルのプロトタイプを構築することができた。 2. モデルの結果と今後の方策の検討:以下の2点が考えられた。(1)化学構造だけでなく臨床情報を加えることが予測性能の向上につながる可能性がある。(2)検証に用いることを予定しているNDBは、データの使用申請等の理由により入手に時間を要し、管理・取り扱いに十分な注意が必要であり、データ量が大きいため、まずは比較的取り扱いが容易な臨床データを用いた検討やモデルの検証を実施しておいた方が効率が良い可能性がある。 3. 追加の解析:2の検討より、大規模副作用自発報告データベースであるFAERSを用いて、抗コリン性副作用に関連する解析を実施することにより、モデル構築や検証を実施する上での参考情報を得ることとした。 4. 全体の進捗:以上より全体の進捗に遅れが生じた。しかし追加の解析からは、モデル作成上有用なデータが得られたため、研究の質の向上につながったと考えられる。この結果は、2020年度に開催予定の関連学会に演題登録を行っており、採択された場合には発表により成果を公表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. 抗コリン性副作用の予測モデルの完成:抗コリン性副作用の予測モデルの構築にあたっては、医薬品の物理化学的特徴量に加えて追加解析の結果等を変数として組み込むこととし、モデル構築の手法には複数の方法を用いて複数パターンのモデルを構築する。手法ごとに最も予測性能の高いモデルを選択し、評価に用いる。得られた結果は、学会や論文等で報告し公表する。 2. 予測モデル検証データの準備:最終的な予測モデルの検証はレセプト情報・特定検診等情報データベース(NDB)を用いて実施する計画であるため、申請に関する情報収集と手続き、利用するための環境整備等を行い、2021年度に開始できるよう準備を進めていく。NDBが利用可能な状態になるまで、しばらく時間を要することが見込まれるため、代替となる臨床データによる検証が実施可能か検討する。現時点ではFAERSの次の段階として、商用のレセプトデータベースを用いた検証の実施可能性について情報収集を行い、実施可能であれば解析と予測モデルの検証を行うことを予定している。 3. レセプトデータを用いた解析の準備:NDBや商用のレセプトデータベースを用いた解析を行うための知識や技術を習得する。具体的には、関連学会やセミナーの聴講や論文等より情報を収集するとともに、サンプルデータ等を用いて操作方法を習得することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度実施した研究内容は、現在の研究環境下で実施可能であったため、物品費は生じなかった。 次年度以降は、より高度な計算や大きなデータベースを扱うことになるため、専用のコンピューターや解析ソフトのライセンス等が必要になる予定である。さらに商用データベースの使用を検討しており、購入する可能性がある。 2020年度に学会発表予定の研究結果や今後の研究結果については、論文化する予定であり、投稿料や英文校正料等が発生する予定である。
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