研究課題
糖代謝の過程で産生されるカルボニル化合物であるメチルグリオキサールは、それ自体に神経毒性があり、長期間生体内に貯留することでタンパク質のAGEs化を促進することが知られている。この現象が神経変性疾患や精神疾患に関連することが報告されている。一方で、メチルグリオキサールはグルタチオンやシステインなどの生体内低分子化合物との反応性も知られているが、脳内における神経伝達物質とメチルグリオキサールとの反応性はあまり知られておらず、疾患との関係も十分な検討が行われていない。この背景を踏まえ本研究では、メチルグリオキサールと神経伝達物質との反応性の検討を行った。in vitroの実験系の結果、メチルグリオキサールはセロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンと37℃、中性条件下において高い反応性を示すことが分かった。また、これらの反応の結果得られた反応生成物をLC-MS/MSで解析し、その構造を推定した。このうち、メチルグリオキサールとノルアドレナリン及びアドレナリンの反応で生成した化合物が複数確認され、それぞれこれまでの報告にない新規の化合物であった。一方で、メチルグリオキサールはグルタミン酸やGABAとは反応性を示さなかった。さらに、海馬由来神経細胞であるHT22細胞またはラット副腎髄質褐色腫由来のPC12細胞を用いた実験で、メチルグリオキサールの添加によって生じ得る細胞内の神経伝達物質濃度の変動や反応生成物の産生、それらの取り込み及び放出への影響も解析した。その結果、メチルグリオキサールは神経細胞内においても、神経伝達物質と反応し、それらの反応生成物が産生され得ることが示唆された。現在は、マウス脳におけるこれら反応生成物の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
これまでにメチルグリオキサールはドパミンと反応することが知られていた。これらの反応生成物の構造も明らかになっており、本研究でも同様の結果が得られた。その一方で、ノルアドレナリンやアドレナリンとメチルグリオキサールとの反応は知られていなかったが、本研究で両者が非常に高い反応性を有することが明らかになり、それらの構造も推定できた。これらの実験を基に、マウス脳を用いた実験も順調に進行中であり、神経系の疾患モデルマウス等で、in vitroで明らかとなっている反応生成物の同定を行う準備をしている。
今後は、マウス脳を用いた実験を中心に行う予定である。具体的にはマウス脳にメチルグリオキサールを投与し、in vitroで得られた反応生成物の同定を行う。また、メチルグリオキサール代謝酵素であるグリオキサール1の欠損は不安様行動を示すことが知られているが、このような疾患モデルマウスの脳において、メチルグリオキサールと神経伝達物質が反応して生成する代謝物の解析も行っていく予定である。
計画していた細胞培養実験が予定より早く決着したため、その分が繰り越しとなった。次年度の動物実験用の費用として用いる予定である。
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