本研究では、治療抵抗性統合失調症患者中に多く存在するとされているカルボニルストレスを伴う統合失調症に注目し、その発症メカニズムの解明を目的として検討を行った。 カルボニルストレスは終末糖化産物の蓄積によるタンパク質の機能異常が生体にとって有害となる。これまでの研究では、終末糖化産物の前駆物質として知られているメチルグリオキサールなどとタンパク質との反応を検討して、生体機能への影響が考察されてきた。一方で、統合失調症はドパミンなどによる神経伝達の異常がその病態に関与する仮説が有力である。従って本検討では、メチルグリオキサールと神経伝達物質との反応性を検証し、この反応によって産生される反応生成物の解析をLC-MS/MSによって行った。 その結果、pH7.4のリン酸緩衝液中でドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンおよびセロトニンとメチルグリオキサールは高い反応性を示すことが明らかとなった。一方でGABAとメチルグリオキサールは反応性を示さなかった。また、これらの新規の反応生成物がLC-MS/MSによって同定された。 次に、マウス海馬内にメチルグリオキサールを投与し解析を行った。その結果、海馬内には高度に終末糖化産物が蓄積することが確認された。一方で、in vitroで検出された反応生成物はマウス海馬内では検出されなかったが、メチルグリオキサール投与によって海馬内のノルアドレナリンレベルの顕著な減少が認められた。また、オープンフィールド試験を行ったところ、海馬内にメチルグリオキサールを投与したマウス群は、コントロール群と比べて不安様行動を示すことが明らかとなった。 以上より、メチルグリオキサールは神経伝達物質との反応やタンパク質との反応によって神経伝達を錯乱させると考えられ、これらのことがカルボニルストレスを伴う精神疾患を引き起こす可能性が示唆された。
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